グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第十四章〜
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「チッ……、普通に戦うよりなんか疲れるぜ」

 クローレンはブツクサと文句を言うが、レキはその横からまたひょいと顔を出し前方を窺っていた。
 今度は少し離れた所に5、6匹のガーゴイルと、大トカゲの形態のモンスターの群れがあった。
 どうやら集まって会話でも交わしているようだったが、なにぶん数が多いためここを気づかれずに突破するのは少し難易度が高そうだ。

 まださっきやり過ごした骸骨の剣士の姿も遠くに確認できることから、とにかくモンスターの数が今より少しでも減った時に行動するのが懸命かもしれない。


『あいつらが別れた時に、次はもう少し先に見える建物まで行くよ。……あれはアイテム屋か何かかな? お店はほとんど壊れちゃってるみたいだけど、もしかしたら役に立ちそうなアイテムが残ってるかもしれない』

 レキは言いながら、少し離れた先にある、ほとんど原型をとどめていないアイテム屋らしき看板がかかっている建物を指さしてみせる。
 おそらくかつて街が滅びるまでは多くの客で賑わっていたであろうその店は、瓦礫の量や残った残骸を計算するだけでも、かなり大きな店であっただろうことが予想できた。
 今はもう見るカゲもないが、それでも調べてみる価値はあるだろう。

「了解。んでも、奴らが別れるのはちっと時間がかかりそうだな」

 クローレンも前方のモンスターをちらりと確認し、その様子を見た後で再び民家に身を隠し、呟いた。
 モンスターの群れが別れそうな気配はまだ全く感じられない。彼等は侵入者もいなければ特にすることもなく暇なのだろう。
 数匹が同時に会話する彼等の声は、ギィーギィーと金属を引っ掻く騒音のようにしか聞こえないが、どうやらしばらく話が途絶えることはなさそうにみえる。

『そうだね。ちょっと待とうか』

 レキもそう言うと顔を引っ込める。
 二人は民家の陰に並んで身を隠しながらモンスターの会話が止むのをじっと待った。



「……なぁ、レキ」

 しばらく無言で待っていた二人だが、不意にクローレンがその沈黙をやぶった。

『ん、どうしたの? クローレン』

 レキはすぐさまその声の主のほうを振り向く。
 すると、クローレンはなんだか、いつになく真剣な顔でレキを見ていた。

「お前に一つ聞きてーんだけど」

『? 何を?』

 クローレンの突然の問いに、レキはきょとんと首をかしげる。
 あまりおしゃべりには向かないだろうと思われるこの状況で、クローレンの言葉はあまりに唐突だった。
 彼は一体何を聞きたいというのか。
 レキは不思議に思いながら、次にクローレンから出る言葉を待った。


「……お前、さ」

 クローレンは口を開いたかと思ったら、しかしそれをまたすぐに閉じてしまう。
 そしてちょっと考え込むような仕草をした後で、彼には不釣り合いなこの真面目な雰囲気を解いた。


「やっぱなんでもねぇ」

『……なにそれ』

 何か言おうとしていたことを喉の奥へと押し込めてしまったクローレンにレキは怪訝な表情を向けると、ちょっと不満そうな声を出してみる。

『なんか余計気になるんだけど』

「はは、まー気にスンナって!」

 わざとらしく笑ってごまかすクローレンだったが、レキはジッと探るような視線を彼から逸らさなかった。
 その真っ直ぐな視線にクローレンは若干たじろぐような様子を見せる。

「………だからなんでもねぇって」

『ほんとになんでもないの?』

「あぁ」

『……そう、ならいいんだけど』

 レキはまだかなり腑に落ちない思いがあったが、クローレンがなんでもないと言う以上、レキは仕方なくそれ以上の追及をあきらめるほかなかった。
 気になるのは山々だが、無理に聞き出すこともできないだろう。

 再びしばしの沈黙が流れる中、レキがモンスター達の様子のほうへと意識を向けることにすると、その隣でクローレンは小さくフゥと息をついた。


「オレが聞きたかったことは、いつかお前から話してくれんのを待つよ、レフェルク」



 ………


 …………!?



 ボソリと呟いたクローレンのその言葉に、レキは心臓が飛び出すくらいに驚くと、衝撃を受けたような表情でクローレンを二度見した。
 あまりにも突然に本名を呼ばれたことと、クローレンの話の展開がまったく掴めないことにレキは盛大に戸惑う。


『な、何をオレから話すって?』

 クローレンの話は飛躍しすぎていてレキにはなんのことだかさっぱりわけがわからなかったため、すかさず彼へと聞き返した。クローレンはまったく本当に考えていることの真意が掴めないから困る。

『もしかして、スラからなんか聞いた?』

 レキはふと、思い当たったことを口にしてみるがクローレンは大きくかぶりを振ってみせる。

「スラからは別になんも聞いてねぇよ。そんな時間もなかったしな。……ただこのダンデリオンに来て以来、お前の様子がちょっと変な気がしてさ」

 さっきは一度言うのを躊躇したクローレンだったが、こうなったらやっぱり最後まで言ってみることに決めたようだった。彼はさらに続ける。

「……なーんかお前さ、いつもに増して無謀になってるっつーか、それとも妙に張り切ってるっつーか。この惨状のダンデリオンを見て、なんか思うことがあったんじゃねーかとオレは感じたわけよ。スラは、あいつの能力でお前のこといろいろ知ってたみたいだけど、オレはそんな力ないからさ。お前が“グランドフォースのレキ”って以外は、お前が何者なのかも今までに何があったかも全然わかんねー。わかんねーからお前の様子がちと気になったわけ」

 クローレンはそこまでを一気に言い終えると、ちらりとレキを見た。
 レキは相変わらず驚きの表情でクローレンを見つめている。
 クローレンはさらに付け加えた。

「まっ! もしもお前が話したくないことだって言うんならオレは別にこれ以上詮索するつもりもねぇし、いつかお前が話してくれる時を待つけどな」

 そこまで言うと、彼はあっさりと前方のモンスターの方へ視線を戻す。
 今までのおしゃべりがモンスターの方にまで聞こえていないかと確認しているようだが、どうやらそんな心配はなかったようだ。

 モンスター達は相変わらずギィギィと話を続けている。
 しかしその数はさっきより少しだけ減っていて、今やモンスターの数は三匹ほどになっていた。
 巡回している骸骨の騎士の姿も今は見えないし、動くとしたらそろそろ頃合いだろう。



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