グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第十四章〜
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再び・ダンデリオン――。
レキとクローレンは街の入り口付近にまで来ていた。
近くから街の中の様子を窺うと、確認できるだけでも数十匹のモンスター達が徘徊し、それだけでもかなり危険な雰囲気が漂っている。
モンスターの種類も、先程抜けてきた森にいたものとは違い、さらに上級だと思われるようなモンスターが多くうろついている。
以前ウェンデルの未開の地で遭遇したようなミニドラゴンやアンデット系の骸骨騎士、また今までは目にしたことがないような数種の獣を合体して狂暴化させたようなモンスターの姿もある。
おそらく何らかのキメラだろうと思われるが、そのモンスターの発する危険なオーラから察するに、かなり上級なモンスターであることは間違いなかった。
さらに、他にもたくさんのザコモンスター達が辺りをうろついており、レキとクローレンの二人にとっては非常に好ましくない状況だった。
「……おいレキどーするよ? あの数の、しかもあんな強そうなモンスター達相手に真正面から突っ込んで行くのはちと無理があるぜ。なんか作戦でも立てねぇとなー」
クローレンはこの緊張感漂う雰囲気には、およそ似つかわしくないのんびりとした口調で提案する。
緊迫したシーンでの彼のこういった口調はもはやお馴染みだ。
『作戦か……。とにかく中の様子を詳しく知りたいし、最初はなるべく戦闘は避けながら街の中心まで行きたいな。ルーシィさんの無事も確認しなきゃならないし』
レキが考えながら言う。あまり作戦という程の作戦ではないが、なにしろ乗り込むメンバーがたった二人だけなので、他に有用な手立てというのも少ないだろう。
「つーことはよ、モンスターに見つからねぇよう逃げつつ進むってことだよな? そーいうことなら得意だぜ」
クローレンはレキの言葉にニヤリと笑いを返すと、まかせろ!とでも言うように自分の胸をドンと叩いてみせた。
『でも、どうしても戦わなきゃならない状況になったら戦うよ。その時はまたグランドフォースの力を使うから、クローレンちょっとだけサポートを頼むよ』
レキはそれだけ言うと街の入り口から少し離れた、崩れかけたバリケードのほうに向かって歩いて行く。
ダンデリオンの街は、入り口以外は高い塀のようなバリケードで囲まれており、それによって外からの侵入者を防いでいたようである。
今はそのバリケードもところどころ崩れかけていたが、レキが向かったのはその中でも最も侵入が容易そうな部分であった。
「おい、でもそれだと後でお前が危険になるだろ。さっきまでのザコどもと違ってここのモンスターはちと強そうだし。お前、フォースを解放したら集中攻撃されるぞ」
クローレンはすかさずレキに突っ込んだが、当の本人はそんな忠告も聞かず、すでにバリケードを越えようとしているところだった。
どうやらそこには入り口のように駐在しているモンスターがいないようで、彼はまもなくダンデリオンへと突入する寸前だった。
『行くよ、クローレン』
「オイコラ! お前、人の話聞いてないだろ!……んっとにお前は命知らずな奴だよな」
クローレンはブツクサ言いながらも駆け足でレキの元へと向かう。
するとレキは、ひょいと登ったバリケードの上からクローレンを見下ろし、にっこりと笑ってみせた。
『ちゃんと聞いてるよ。でも囲まれたりでもしたら他に方法ないでしょ? 大丈夫。オレ、やられたりなんかしないよ』
レキはそこまで言うとピョンと塀から飛び下り、街の中へと姿を消した。
残されたクローレンは、なんだか納得がいかないようにガシガシと頭を掻く。
「……なんつー奴。ほんとに大丈夫かよ」
クローレンはそう一言呟くと、仕方なく彼もレキの後に続いてバリケードを越えた。なるべく戦う状況にはならないことを祈りながら――……。
〜第十四章〜「潜入!ダンデリオン」
レキとクローレンの二人は崩れかけた建物の陰に身を隠し、街の様子を窺っていた。
すぐそばには、三つの違う頭をもつ猛獣のようなキメラ、それから巨大な剣を携える骸骨の剣士がうろついている。
彼等は似たようなルートをぐるぐる回りながら侵入者の見張り番でもしているようだが、おそらくこんな危険な街に自ら潜入しようとする輩は今までいなかったのだろう、彼等はどことなくやる気もなく暇そうにしている。
『なんとか隙を見て前に進もう。仲間を呼ばれると厄介だから』
レキは荒廃した建物からこっそりと顔を出し、モンスターの様子を見ながら隣のクローレンに小声で話しかける。
「そうだな。あと、上にも気をつけろよレキ。空にも厄介なのが飛び回ってるぜ。……ありゃドラゴンか? あいつにも見つからねぇように進まなきゃなんねーぞ」
クローレンが空を見上げながら面倒くさそうに呟く。
空にはダンデリオンの街を旋回しながら、地上の様子に目を光らせているドラゴンの姿が確認できる。
地上と空からの両方の監視をかいくぐって街の中心まで行く事など本当に可能なのか、と彼は少々訝しんだところでケホリと一つ、小さな咳をした。
ダンデリオンにはかつては花であったと思われる白い灰がまだハラハラと舞っており、どうやらクローレンは空を見上げた際その灰を少し肺の奥へと吸い込んでしまったようだ。
『大丈夫?』
「あぁ、ヘーキヘーキ。んでもこの灰も大量に吸うと体には良くねぇだろうな〜。ここに長居は禁物だぜ」
クローレンは自分の片腕を口元へと寄せ、少しでも灰を吸うことのないように服の袖で口元を覆い隠しながら呟く。
『そうだね。なるべく速く、でも慎重に進まないと』
レキは前方の敵を見据えつつ答える。
モンスターは一見、隙だらけで見張りをサボり気味のようにも見えるが、こちらの気配を少しでも察知するとたちまち襲ってくることには間違いないだろう。
なんとかモンスターをやりすごし、さらにその奥に確認できる崩れかけた民家辺りまで前進したいが、そこに身を潜めるまで奴らはこちらを振り返らないだろうか。
「考えてても仕方ねぇ。今だ、行くぞ!」
『……うん!』
クローレンの掛け声にあわせ、二人は物陰から飛び出した。素早く迅速に、それでいてかつ慎重に音をたてず、前方の民家の物陰へと身を隠す。
一瞬、何かを感じとった骸骨の剣士がこちらをチラリと見たのが目の端に映ったが、それはギリギリ二人が再び物陰へと姿を隠した時だった。
骸骨のモンスターは気のせいかと首を捻った後、また同じルートを歩き出す。
「うへ、あっぶねー。もうちょいで見つかるところだったぜ」
『今の奴、いいカンしてるね』
二人は軽い言葉を交わし合いながら、民家の陰でホッと息をつく。
だがこれだけのことで落ち着くのは早過ぎる。先はまだまだ長いのだ。