グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第十三章〜
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「あ〜あ、今更ながらにオレのなんちゃってフォース騒動はちょっと軽卒だったよなー」

 クローレンはカルサラーハの町で自分がグランドフォースを名乗っていた事を思い出しながら言った。
 本当に自分がグランドフォースだったなら、あんな危険な真似ができるわけがなかったのだ。しかも、町の人達にちやほやされるのをいい事に、おもいっきり飲み騒いでしまったものだからあの時のことは今思い返すと非常に恥ずかしい。


『はは、ほんとだよ。あれは正直驚いたね』

 レキは笑いながらクローレンに相槌をうつ。
 彼は先程自分がモンスターの集中攻撃を受けた事などあまり気にとめていないような様子で、普段通りのんびりとしている。ある程度は予想の範囲内、といった感じのようだ。
 そんなレキもクローレンの言葉に、カルサラーハでのことを思い出したようである。


『あの時は、まさかこんなふうにクローレンと一緒に旅することになるとは思わなかったな。だってクローレンの第一印象、最悪だったし』

「……オイコラ、最悪はないだろ」

 クローレンはレキの言葉にムスッとしてみせる。
 たしかに印象は悪かっただろうが、はっきり言われると反論もしたくなる。
 でもレキはそう言いながらもにっこりと笑っており、最悪、なんて言葉の説得力はあまりなかった。


『今はそんなこと思ってないからね』

「当たり前だーッ、オレは本来、かなり人間のできてる男だからな。今でも印象が悪いままでたまるか!」

 クローレンは「人間のできてる」という部分をかなり強調して言ってみせたが、レキはクスクスと笑ったものの、意外にも否定はしなかった。
 一緒に旅するうちにクローレンの長所、というか尊敬に値するような部分があることはレキももちろんわかっていた。
 普段はおちゃらけているくせに、たまにビックリするくらい真面目でしかも熱いことを言うから、たぶんそんなところがクローレンの本質なんだろうとレキは思うことにしている。


『でもクローレン、ほんとにオレと一緒に旅していいの?……さっきも見たと思うけど、オレは必要以上にモンスターに命を狙われるし、クローレンにも危険な旅になるよ』

 レキはクスクスと笑っていた顔から、少し真面目な表情になって言った。
 ジルカールを出た時に、お互い相手を守り抜くという覚悟を決めたものの、それでもやはり少しの不安はある。今ならまだクローレンは引き返すことができるし、レキは念のため、もう一度だけ確認した。


「危険だろーがなんだろーが、これはオレが決めたことだから引き返すつもりはねぇよ。……それに、まっ、お前みたいなお子様にはオレのような頼れる相棒が必要だろうからな! んな心配すんなって」

 クローレンはレキの杞憂を吹っ飛ばすくらいの力強い勢いで言うと、レキの肩をポンポンと叩き、安心させてみせた。
 お子様、という言葉は少し聞き捨てならなかったが、どうやらクローレンの覚悟はちょっとやそっとのことでは揺るがないらしい。

 レキはそのことが素直に嬉しかったのと同時に、これ以上危険だなんだと確認するのは野暮とでもいうような、既にそんな必要さえない信頼関係にも似たようなものがクローレンとの間にはできているようにも感じたのだった。

『わかった、じゃあもう聞かないよ』

 レキは笑顔で答えると、もたれかかっていた木からピョンと体を離す。

「そーそー、それでいいって。もうオレはお前の旅に付き合うって決めてんだ」

 クローレンもそう言うとググッと大きく伸びをし、そろそろ出発の頃合いかと準備を整える。
 体もある程度休まったことだし、この危険な場所であまり長居するわけにもいかないだろう。

『じゃ、またモンスターが出る前に行こうか』

「ういよー」

 再び歩き出したレキにクローレンは相槌をうつと、二人は並んでその場を後にする。


「……でもよー、お前って結構自分から危険に突っ込んでくトコがあるからなー」

 クローレンは歩きながらふいにそんなことを呟いた。

『えっ? それはないと思うけど』

 レキは驚いてクローレンを見る。
 クローレンの前で自ら好んで危険を冒した事があっただろうか。
 考えていると、クローレンはさらにその呟きの先を続けた。

「だってよ、お前オレが一応止めたにも関わらずダンデリオンに行くって。あそこは少し前にモンスターが攻め込んだって有名だぞ。マジ、これが危険に突っ込んでくと言わないで、なんつーんだよ」

 クローレンはわざとらしく「ハァ〜やれやれ」なんて言いながら両手を上げ、呆れた様子を表してみせる。

「別に、避けて通れるんだから行かなきゃいいのに。途中のこの森でさえ、こんなにモンスターだらけだぞ」

 クローレンがちょうど言い終えた時、タイミング良く前方からモンスターの群れが現れた。それを見てクローレンはさらにため息をつく。
 しかし彼はそんな様子ながらもすぐさま剣を抜いており、すでに戦闘体勢を整えていた。

『だって、モンスターが攻め込んだなんて聞いて放っておけないよ。まだ無事な人もいるかもしれないし、助けにいかないと』

 レキもそう反論しながら剣を抜くと、今まさにこちらへと狙いを定めつつあるモンスター達を迎え撃つため、構えをとった。

「チッ、とことん正義感の強ぇヤツ。……ま、でもお前のそんなところが“グランドフォース”ってトコなんだろーけど!」

 クローレンは最後のほうをもうほとんど叫びながら言い終えると、そのままモンスター達の群れへと向かって飛び込んでいった。



――……†


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