グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第十三章〜
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〜第十三章〜「滅びた街とフォースの花」



「おりゃぁぁああ!!」

 力強い掛け声と共にクローレンは掲げた剣を一直線に前方へと降り下ろした。
 その一閃は見事、彼の前へと立ち塞がっていた巨大な蜘蛛のような形態のモンスターに直撃し、その強烈なダメージは反撃の機会を与える間もなくモンスターを地へとひれ伏させる。

「……チッ、次から次へとモンスターが湧いてきやがる。この数はちょっとばかし異常だぜ」

 いましがた自分が倒したばかりのモンスターに一瞥をくれた後で、クローレンはさらに自分の周囲を取り囲む数多くのモンスター達を見回し、ブツクサと文句を言った。

 魔法都市ジルカールから、花の都・ダンデリオンへと向かう方角には険しい森が位置しており、その森には入るなり次から次へとモンスターが現れ、クローレンはさっきからまったく休みなしに戦い続けていた。
 木々がひしめき合い、おまけにうっすらと霧さえも立ちこめるこの薄暗い森は、慣れない者にとってはとても見通しが悪く、さらに自由に動き回るのも困難なほどに戦う場所は狭いため、彼は苦戦を強いられていた。


『クローレン、後ろ!』

 ふいに、彼よりさほど離れていない場所から少年の警告の声が飛ぶ。
 声の主は相棒のレキだ。
 レキもクローレンと同じくこの森の中、モンスターの群れを相手に、繰り出される数々の攻撃をかいくぐりながら戦っていた。

 敵の数が多いため少しの油断が即命取りになり得る状況だったが、レキは常にその足を止めることなく攻撃をかわし、モンスターの一瞬の隙をついて器用に反撃を繰り出している。
 また、彼は戦いながらでも全体の動きを把握しているようで、クローレンの周りにも注意を払っていた。


「わ〜かってるよ! おいレキ、このままじゃキリがないぞ!」

 クローレンはレキの警告に、前方へと注意を向けたまま振り返ることなく答えると、そのまま後ろへ剣を振り、背後から今まさに襲いかかろうとしていたモンスターを間一髪のところで切り捨てた。

 彼等はずっと戦い続けていたため、二人ともそろそろ体力の限界が近づいてきている。
 動きが鈍くなればモンスターの攻撃を避けるのも難しくなってくるだろう。


『……そうだね、じゃあなんとか一気にカタをつけるよ。クローレン、ちょっとの間だけ敵の注意を引き付けてもらえる?』

 レキはそう言うと、モンスターの攻撃の一瞬の隙をついて神経を集中し始めた。
 クローレンの、まかせろ!という声を頭の片隅で聞きながら素早く、そして強く、自分の中に眠る巨大な力を呼び起こす――。


「おらぁ! オレが相手だッ」

 クローレンはレキが集中し始めたのを確認すると、クルリと向きを変え、剣を振り回しながらレキの周りを取り囲むモンスターを片っ端から攻撃し、その注意を自分へと向けようとした。
 あまりにもモンスターの数が多いため、とにかく剣を振り回すだけでもなんらかのモンスターにはその攻撃を命中させることができたが、おそらくどれも致命傷にはならないダメージだっただろう。
 なかには、その攻撃を避けたり挑発に乗らないモンスターもいたが、時間を少しだけでも稼げればそれでよかった。
 レキからはまもなく聖なる光のオーラが溢れ出る。


“―――フォース、解放!!!”


 レキが念じると同時に、爆発的な輝く光がその場一帯に吹き荒れた。
 クローレンの攻撃でダメージを受けていたモンスターや、元々それほど上級ではないモンスター達は、その聖なる光を浴びるだけでたちまち耐えきれなくなったかのようにその姿を塵へと還す。


「……ンナッ、ナンダ、コノ光ハ!! コレハマサカ、伝説ノグランドフォースノ……!?」

 光を耐え切った数少ないモンスター達は、全身火傷をしたかのようなダメージを受けながら驚愕の瞳で光を放ち続ける少年を見る。
 彼等は本能的にレキの力の正体を察したようだった。

 それくらいにモンスターにとってグランドフォースの力とは強大で、恐れるべきものであり、なにを置いても消さなければならない危険な存在だった。
 生き残った彼等は全員、迷う事なく即座にレキめがけて飛びかかって来る。


「コイツハ危険人物!! 抹殺優先順位、一位ダ!!………消セッ!!!!」




――……†




「ふ〜〜。やれやれ、や〜っと一段落ついたぜ」

 クローレンは手に持つ剣を鞘へと戻しながら、疲れたようにフゥと息を吐く。
 あれから二人はなんとか現れた全てのモンスターを倒し、しばしの休憩をとろうと戦闘体勢をといていた。

 この森には入るなりモンスターが次々と現れたので、二人は戦いつつ奥へと進んできていたのだが、まだ先は長そうなため、モンスターが片付いたこのわずかな間に少しだけ体を休めることにしたのだった。
 二人は辺りに細心の注意を払いながらもひとときの休養をとる。

「レキ、グランドフォースの力はやっぱスゲーけどさ、それ使うとお前狙われるのな。……ちょっと気をつけて使わねーとなんねぇな〜」

 クローレンは先程の戦いを思い出しながら、手近にある木にもたれかかって体を休めているレキに向かってそう言った。
 レキがフォースを解放した瞬間、モンスター達は皆ターゲットを直ちにレキへと変更し、その後の執拗ぶりはなかなか厄介なものであった。
 モンスターの数が減っていた事、それからレキもフォースを使って応戦したこともあり今回の戦闘には特に難もなく勝利することができたが、今後もっと強いモンスター相手ではレキが危険になるのではないか、と、ふとクローレンは思う。

 フォースの力は強く、一度にかなりモンスターの数を減らす事ができるものの、その力は逆に自らを危険にもさらす、いわば諸刃の剣といったところか。
 どうやらモンスター達はクローレンの思っていた以上に、グランドフォースを抹殺せんと本能的にその命をつけ狙っているようである。

 ジルカールでのイズナルの様子を見ても少々感じていたが、今回の戦いであらためて、クローレンはレキの持つグランドフォースという立場の重さと危険さを理解したような気がした。



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