グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第九章〜
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「ウギャァアアアア!!!」
イズナルが激しい苦痛の叫び声をあげ、地面に倒れ込んだ。
光の剣で斬られた傷は、イズナルにとって何よりも堪え難い痛みを与え、その光の傷跡は、邪悪なものを打ち消すかのように徐々に大きく広がりはじめていた。
「……ウゥ! このままやられるわけには……!!」
イズナルは息も絶え絶えに、苦痛と闘いながらレキを見上げた。
――この少年をこのまま生かしておくわけにはいかない……!
その執念だけがイズナルの体を動かしていた。
「……さっきの宣言通り、命を懸けてやろうじゃないか! キサマも道連れだっ!! グランドフォース!!!」
イズナルは最後の力を振り絞り、レキの足をガシリと強く掴むと早口で魔法の詠唱をはじめた。
『……!』
その行動にレキは得体のしれない危険を感じ、手を振りきろうとしたがイズナルの手はビクとも動かない。
その手はさらに鋭い爪をレキの足に深く食い込ませると、決して離れないように強く強く握り締める。
『……何をする気だ!?』
レキが嫌な予感を感じる中、足下でイズナルがにやりと邪悪な笑みを浮かべた。同時に、二人を囲む空気がバリバリと音をたてて歪みはじめる。
「お前と相討ちなら、悪くないよ……レフェルク!!!!」
イズナルが叫ぶと同時に、辺りが目を開けていられないほどに激しく光った。
どうやらイズナルは、レキを道連れに自爆でもしようとしている様子だ。
――まずい……!
直感的にそう感じたレキは、フォースの光を一層強める。だが、命を懸けたイズナルの捨て身の一撃を防ぎきれるかはわからなかった。
しかしレキが危機を感じ取るのとちょうど同時に、すぐそばで―――聞き慣れたあの緊迫感のない呑気な声が耳へと入って来た。
「……おーい、クソババァ! さっきはよくもオレの体で好き勝手してくれやがったな!」
イズナルは光の中、その声のほうにギョッと顔を向ける。
そこには剣を構えたクローレンがにやりと笑いながらも怒りを感じさせる表情でイズナルを見下ろしていた。
「なッ……!! キサマ、正気を取り戻したと言うのか!?……あ、ありえんぞ!!」
イズナルが予想外の新手の登場に動揺する。植え付けたモンスターの心は一体どこへいってしまったというのか。
そんな疑問を整理する暇もなく、魔法はまもなく発動する寸前だった。
「……ババァ!! 死ぬならお前一人で死にやがれ! レキを巻き込むんじゃねーーよッ!!!」
クローレンは力強くそう叫ぶと、両手で構えた剣を下から滑り込ませ、そのままイズナルの体を宙へとおもいっきり高く振り上げた。
強い衝撃により、レキの足を掴んでいた手も離れる。
「ぐぁああ!!……キサマァアア!!! よくも……」
イズナルは高く宙を漂いながら怒りの断末魔をあげる。
ちょうどその体が、最も高い位置まで舞い上がったその瞬間、ついに魔法が発動し大爆発が起こった。
イズナルの叫びを飲み込んだその激しい爆発は、ジルカールの空一面をこれまでで最も明るく輝かせ、邪悪な根源すべてを光へと還した。
……――くそっ、
グランドフォース
これで終わりだと思うなよ……
……この借りはいつか、きっと………
最後にそんな声が聞こえたような気がしたのは、ただの気のせいだったかもしれない。
しかし、こうしてイズナルは自らの放った魔法によって敗れ、最後はなんともあっけなく自滅の道を辿ったのだった。