グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第九章〜
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〜第九章〜「決戦!イズナル」


 我を忘れて叫んだものの、目の前のありえない状況にイズナルは動揺を隠しきれなかった。
 怒りでブルブルと体を震わせながら、ひたすらに少年の左胸に輝く紋章を睨みつける。

「グ、グランドフォースは死んだはずだよ!! たしか……エレメキアの王子だったレフェルクとかいう奴!……そいつはエレメキアと共に滅んだはず!!」

 イズナルはレフェルクという名前が、以前に聞いたことのあったグランドフォースの名前であることを今になってようやく思い出した。

 “世界を破滅へといざなう者”の直属の臣下として、抹殺を完了したフォースについての報告を部下から受けていたのだ。
 その時たしかに、グランドフォースであるレフェルク王子は死んだと聞いていたはずだったのだが……。


「……まさか、生きていたとは」



 突然のグランドフォースの出現に驚いたのはもちろんイズナルだけではなかった。

 勇敢にも逃げずにその場に留まっていた魔導師たちや、聖なる光に誘われ、今や街中から集まって来ているジルカールの人々は、光の中心に立つグランドフォースの少年の存在に気づき、皆これ以上ないというくらいの驚きを感じていた。


「……あの子が、グランドフォース!!?」

「ほ、本物!?……まだ幼い少年じゃないか!」


 ざわざわと驚きの声が、あちらこちらから上がる。
 たくさんの人が次々と押しかけ、レキ達の周りを少し離れた円状に、ぐるりと取り囲んでいた。皆フォースの姿を一目見ようと、好奇心に首を伸ばしたりジャンプしたりしている。
 まさにその光景は、先日のカルサラーハでのフォース騒ぎそのものであった。


『……危ないから、みんな下がって』

 レキは、視線はイズナルを見据えたまま、群衆に対して低い声で呟く。

 見た目は幼い少年にもかかわらず、その言葉には妙に迫力があった。
 それは今、彼が本気で怒りを爆発させ、みなぎる力と闘志を激しく燃やしているからに他ならない。

 観衆はレキのその様子に、慌てて数歩後ろに下がると、その場から事の行方を見守ることに決めたようだった。
 どうやら現在、緊迫した戦闘の真っ最中であるらしいこの状況を、人々は徐々に把握し始めていた。

 ――邪悪さと怒りに満ちた表情の魔導師イズナル。それと対峙するグランドフォースの少年。その足下には傷付き倒れている女性の姿……。


「フォース様! 及ばずながら私にその方の治療を任せて下さい」

 スラの急を要する状態に気づいた群衆の中の一人が、そう言って前へと進み出て来た。

 彼は少し年老いた神官ふうの男で、スラのそばに佇むとすぐさま魔力を込め、癒しの魔法を発動させる。

 この魔法を使うことができる魔導師は世界でも数えるほどしかいないというが、幸いこの魔法都市ジルカールにはその貴重な魔導師がいたようだ。


『……ありがとう、頼むよ』

 レキはスラのことをその神官に任せると、聖なる光を放ちながら前へと進み出た。



「……チッ! グランドフォースめ……」

 こちらに進み来る少年を見据えながら、イズナルは厄介なことになったと唇を噛んでいた。

 グランドフォースを早々に始末したのは、フォースを解放されるのを恐れたためだった。
 なんとかグランドフォースが成長して力をつける前に抹殺してしまえば、あとの物事が非常に楽になる。
 そのためモンスター側も甚大な被害を受けながらもエレメキアに攻め入ったというのに……これでは全く意味がない。


「クソッ!……それにしてもこんなボウヤが早くもフォースを解放するとは……!!」


 イズナルはまだあまりに幼い目の前の少年に若干の恐れを抱いた。

 この年で、これほどの力を引き出すことができるとは末恐ろしい少年である。
 このまま成長してしまえば間違いなく、モンスター全ての脅威となってしまうだろう。それだけは避けなければならない。


「……グランドフォース! お前だけはどんな手段を使ってでも必ずここで始末してやる!!……たとえワシの命と引き換えることになってもね!!!」

 イズナルはヒステリックに叫ぶと同時に魔力を込め、全神経を集中させて巨大な闇の塊を造りあげる。

 まるで全てを吸い尽くすかのようにして巨大化するその塊をイズナルが高く頭上で掲げると、その妖しい魔力は近くの空間をねじ曲げ、辺りを漆黒に染めた。


 ――フォースの光で相当ダメージを受けた上に、杖もないから威力は半減か……。

 イズナルは心の隅で悔しそうに呟きながらも、完成した強力な闇の魔法をレキめがけて撃ち放つ。


「……喰らいなグランドフォース! そして混沌に消えろ!!――…カオス・デストロイ!!!―」


 全てを飲み込むような、巨大な闇の球体がレキに襲いかかる。
 空気を震わせ、激しい波動をうねらせながらそれは近づいて来た。
 辺りは闇一色になり、観衆は恐怖の声を上げる。

 ――しかし、レキは不思議と確信していた。
 今は自分の内から有り余るほどの力が次々と溢れ出してくる。この程度の魔法を打ち破ることは、今ならば容易いだろう。


『ヤァアアアーーッ!!!!』


 レキが気合いを入れると同時にフォースの光が再び激しく輝いた。
 その光は幾ばくかの矢のように辺りを縦横無尽に走ると、イズナルの放った闇の塊を貫き、光へと還す。

「……なッ、なにィィィ!!?」


 イズナルはその信じられない光景に驚愕した。
 多少威力が落ちているとは言え、最高峰の闇の魔法を気合いだけで消滅させるなど絶対にあってはならないことだ。
 この事実がイズナルを追い詰める。


『後悔しろイズナル。ここでオレと出会ったことを』


 フォースの力がそうさせるのか、レキは今、自分にどんなことができるのか不思議とわかっていた。
 右手を天に向けて高く掲げると、それに合わせて光がレキの手の中へと集いはじめる。

『人の心を弄び、モンスターにして罪を犯させる……非道な行いの報いを今、受けろ!!!』

 光は形を具現化し、輝く剣の形へと変わった。
 レキはその光の剣を握りしめると、イズナル向かって真っすぐに走り出す。


「……くっ!! くそぉおお!!!」

 イズナルはまばゆい光を放ちながら迫り来る少年を直視することができず、顔を背けながら攻撃をかわそうとする。しかし当然、その状態で避けきることはできなかった。
 タイミングがわからず遅れたイズナルの体を、レキの輝く光の剣が斬りつける。
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