グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第八章〜
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イズナルは目を細め、じっくりとレキを観察している。
はっきりと断定はできないが、レキから微かに聖なる力のようなものの存在を感じていたのだ。
どうやらその力がイズナルの邪悪な魔力を打ち消しているようである。
『別に。オレはただの旅人だけど』
レキはイズナルの問いに、自分でも驚くほど冷静に答えた。
彼女の魔法があまり効かなかったのは、レキの持つグランドフォースの力が闇の魔力からレキを守り、威力を弱めたためだろう。
厄介なことだが、イズナルは少なからずその事実に勘付いてしまっている。
それはまもなく、レキの存在――グランドフォースが実は生きていることがモンスター側にバレてしまうかもしれない、ということだった。
グランドフォースはモンスターにとって、最も邪魔な存在。
生きていることがバレれば、再び全力で命を狙われることになるだろう……。
しかしそんな状況を目の前にして、レキは逆に不思議なほど落ち着いていた。
いつかはバレると覚悟していたことである。今さら慌てたって仕方がない。
「ただの旅人ねぇ……」
イズナルがなおも妖しい目を光らせながらレキを値踏みする。
それはゾッとするような冷たさに満ちた目つきであった。
近くにいたクローレンは自分が見つめられているわけではないが、ブルルッと小さく身震いをする。
「うへぇ〜……こわっ! レキ、あのババァお前のことかなり睨んでるぞ。相当、魔法が効かなかったことが許せねぇみたいだよなー。……んでもまぁ、オレもお前の謎の力にちょっと興味湧いたけど」
クローレンは緊張しながらも、どこか呑気なセリフをはく。……そういう性格のようだ。
「まーそれは、あのババァを倒した後できっちり教えろよな!」
そう叫びながらクローレンはイズナルに向かって再び突っ込んでいった。
「くらえ! ババァ!!」
クローレンが攻撃を仕掛けるが、今度はいとも簡単にイズナルに避けられてしまう。
「……今更じゃがお前はずっとババァ、ババァうるさいわ!」
クローレンの生意気な態度が、イズナルの注意を引いてしまった。
「ム……? そういえばたしかお前は魔法が使えないほうだったね。……ホホホ! そうだ! 良いことを考えたよ。あの謎のボウヤの始末はお前につけさせようじゃないか」
イズナルは妖しい笑みを浮かべると同時に、右手の人差し指を真っすぐにクローレンに向けた。
その指先からは一直線に黒い光が伸び、その光はまだ体勢を整えているところであったクローレンの額を貫いた。
「……うわあぁぁ!!!」
『クローレン!!!』
レキは目の前で繰り広げられている光景に目を疑った。
イズナルの魔法がクローレンを貫いてしまった。そしてなおも、黒い光はイズナルとクローレンを繋いだままだ。
クローレンは苦痛に激しく顔を歪めている。
「……慌てなくても大丈夫だよボウヤ。別に攻撃してるわけじゃないからね」
『じゃあクローレンに一体何を……!?』
イズナルがその質問に答える前にスラが後ろから叫んだ。
「レフェルク! その魔法こそが人にモンスターの心を植え付けるものです! 彼は今、イズナルから闇の魔力を注ぎ込まれています!! はやく止めないと彼は……!」
『なんだって!?……そんなことさせるもんか!』
レキはすぐさま剣を構え、黒い光を放ち続けているイズナルへと向かった。
しかし、そのイズナルとレキの間に別の人影が割って入り、レキの行く手を阻んだ。
「オ前ノ相手ハ、ワタシダ」
『!!』
その人影は、地下で見たフードを被った人物であった。
地下と違って周りが明るいためフードの下の顔を確認することができたが、その様子と風貌はまぎれもなく、ただの人間である。モンスターではない……。
「ホホホ! その子はワシの可愛い、成功品のひとつだよ。他の完成品に比べて話し方が片言だから、知能がちょっと低級だけど、中身はすっかりモンスターだよ」
フードを被った人物は剣を構え、じりじりと間合いを詰めて来る。
その様子は全く隙がなく、この人物もかつては相当な剣の腕だったであろうことを感じさせていた。
『くっ……!』
レキは焦った。まずはこの人物を倒さなければクローレンを助け出すことは不可能だろう。
しかし相手は元人間。一体どう戦えばいいというのだろうか。
……そして、こうして考えている間にもクローレンは……。
「うわぁぁあああ……!!」
クローレンのさらなる悲鳴にレキは思わず目を向けた。
見ると、クローレンの周りには邪悪な黒いオーラが漂いはじめている。
「普段ならもっと時間をかけてゆっくりやるんだがね……。だから正直成功するかどうかわからないよ。……まぁ、成功したら晴れてモンスターの仲間入り。失敗したら死ぬだけだがね」
イズナルの言葉にレキはゾッとするような恐怖を感じた。
術が成功しても失敗してもクローレンは無事ではない。
それならなんとしても、完成する前に魔法を止めなくては……!!
「オ前ノ相手ハ、ワタシダト言ッテイル」
よそ見をしていたレキに向かって、フードの人物が斬り掛かってきた。
『……!!』
――キィン!!
レキは寸前でなんとかその攻撃を受け止める。
こちらも、油断しているといつやられてもおかしくないような状況だった。