グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第七章〜
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――30分後。
『……そっか。ありがとうございます』
レキはお礼を言って、聞き込みをした最後のグループに軽く頭をさげた。
「いや、あまり力になれなくてすまないね」
グループのうちの一人である少し年老いた風の魔導師は、そう言うとまた再び仲間のほうへと向き直り、酒を飲みはじめた。
『……はぁ。やっぱりここでもフォースについての情報はないなぁ』
収穫がなかったことに、再びため息をつきながらレキはクローレンのいるテーブルへと向かった。
戻るとそこにはさっきよりかなり気分の良くなったクローレンが、テーブルには三本の空になった酒瓶を転がらせ、さらに四本目の瓶からグラスへと酒を注いでいる最中だった。
「く〜ッ! 一口飲むと止まらねーぜ!!」
レキは酒を注ぐクローレンの手から、瓶をひょいと取り上げた。
「こら何すんだよ!……ってレキ!? 早ぇな、オイ」
クローレンはチェッという顔でレキを見る。
どうやらクローレンはレキのいない間に、かなりハイスピードで酒を飲めるだけ飲もうとしていたようである。
『クローレン、一杯だけじゃなかったの?』
レキがやや呆れてクローレンを見る。
「いや〜、そのつもりが飲むと止まらなくなってよ〜! ま、全然酔っぱらってねぇから安心しろって!」
ハッハッハ、とクローレンが開き直って笑う。
たしかに結構な量の酒を飲んだにもかかわらず、クローレンの様子はほとんど変わっていなかった。顔が赤くなることもなく、相当酒に強いらしい。
「で? 何か分かったか? レキ」
クローレンはすみやかに話を切り替えた。
あまりにもあっさりとしたその様子に、なんだかそれ以上の追及のタイミングを逃してしまったレキは、仕方なく先ほどの聞き込みの成果を報告することにした。
『フォースのことは聞いてみたけど、やっぱり誰も知らなかったよ。でも世界一の魔導師のことはみんなが知ってた。この近くに家があるから行ってみるといいって。場所も教えてもらったよ』
クローレンはカリカリと頭を掻きながら立ち上がった。
「ふーん。やっぱフォースはそう簡単に見つかんねーか……。じゃあ仕方ねぇ。とりあえず、その世界一の魔導師さまとやらの家に行ってみるか!」
二人は代金を払って酒場を出ると、情報をたよりに世界一の魔導師の家へと向かった。
また再びポンポンいう地面を通ることになったが、酒を飲んで機嫌がよくなったクローレンは今度はその音を楽しんでいるようだった。
「ジルカールも、まぁなかなかいい街だよな〜」
クローレンはキョロキョロと街を見回しながらつぶやく。
気分ひとつでさっきと言っていることが全然違う……と思ったレキだったが、せっかくクローレンがご機嫌なので今は口に出さないことにした。
「あ! おいレキ! あれ見ろよ!!」
そんなレキの肩をバシバシと叩きながら、今度は何かを見つけたらしいクローレンが興奮した声をあげる。
『イタタ……! 急にどうしたの? クローレン』
クローレンはよっぽど興奮しているらしく、かなり強くレキの肩を叩いていた。
『なにか見つけたの?』
レキが振り返ると、クローレンはある一点を食い入るように見つめていた。
「……なぁレキ、あの店入ってみないか?」
『ん? どの店?』
聞き返しながらレキはクローレンの視線の先を追ってみた。
そこには一軒の小さな魔法の店らしきものがあり、その店の看板には、どうやらクローレンの視線を釘付けにしている理由らしい“誰でも簡単に魔法が使えるようになるアイテムあります”という言葉がきらきらと輝いていた。
『誰でも簡単に魔法が使えるようになるアイテム?……いいけど、本当にそんな物あるのかなぁ?』
レキは看板を読みながら怪訝な顔をする。
クローレンはなんだかんだ言いつつも、魔法が使えないことに多少のコンプレックスを持っているようだ。
だからこそ、こういった文句の店に惹かれたのだろう。
レキはまだ看板を疑わしそうに見ていたが、その横でクローレンは勢い良く扉に触れ魔法のかかった入り口を開けると、一人でずんずんと中へ入って行った。
「ちわ〜!」
店に入るなり大声であいさつをしたクローレンだったが、彼の予想に反し、それに応える店主の返答はなく店の中はひっそりとしていた。
店内を見渡すと、外の華やかな装飾とは比べものにならず、そこは薄暗くガランとしていてどこか陰気な雰囲気であった。
商品棚の上にはいくつかの数えるほどの商品が並んでいるが、どれも埃をかぶっており、あまり客足の良くないことがうかがい知れる。