グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第七章〜
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〜第七章〜「ジルカールの罠」



「すっげー! 変わったところだな、ここは」

 魔法都市ジルカールに着いたクローレンの第一声はこれだった。

『うん、こんな街オレはじめて見たよ』


 クローレンの言うとおり、そこは見るからに不思議な街であった。

 一緒に旅をするようになってから五日ほどの時をかけ、ようやくジルカールの街の入口までたどり着いた二人は、その見たこともないようなジルカールの街の不思議な光景に目を奪われていた。

 そこは街全体に巨大な魔法がかかっており、低級のモンスターならば中へ侵入できないような結界がはられていた。
 街に見張りの兵士はなく、代わりにその結界を維持するための魔導師が数十メートルおきに配置され、絶えず魔法を発動させ続けている。

 何十人もの魔導師たちのそれぞれの魔力が混じりあった結界は、不思議な七色の光を放ち、街全体が輝くなんとも幻想的な光景を作り出していた。


 レキとクローレンはその結界に足を踏み入れてみたが、するりと通り抜けることができた。
 どうやらモンスターにのみ反応する結界のようで、街を行き来する人々はそれが当然のように結界をすり抜け、出たり入ったりしていた。


「さすが、魔法都市って呼ばれるだけのことはあるよな」


 街の中にはさらにいくつもの魔法がかけられていた。

 触れるだけで溶けるように消え、人を通すとまた元通りに戻る扉や、光のサークルに乗ることで、近くの別のサークルのある場所へとわずかな距離を移動できる仕掛け、そして特にどんな意味があるのかはわからないが、歩くと「ポン♪」と愉快な音を鳴らす地面などがある。


『これって、魔力の無駄遣いじゃないのかなぁ?』

 レキはその地面を踏む度に不思議に思ったが、あまり気にしないことにした。
 ジルカールは魔力で溢れており、無駄遣いといえばすべてがそうなってしまうような気がする。

 また、ほとんどの店は客を呼び込むために壁や看板が数種類の色に変化しており、店の前にはほのかに光る小さな光の玉をいくつも浮遊させて、美しい光景を作り出していた。


「魔法を使える者以外立ち入り禁止」

 幻想的な光景に目を奪われながらも、通り過ぎる店に書かれていたチカチカ光る張り紙の内容をクローレンが声に出して読み上げた。

「魔法を使えない奴には入れない店もあるのかよ。まったく……差別だぜ」

 そう言いながらクローレンはその張り紙のある店のほうへ、くるりと向きをかえ扉に手を触れてみた。

 瞬間、バチィッ!という音とともにクローレンの指先に電流が走る。

「イテーッ!!!」

 どうやら扉に触れたものにほとんど魔力を感じなかった場合、この仕掛けが発動するように魔法がかけられているようだ。

「このやろ……!ふざけやがって」

 クローレンはこの仕打ちにかなり腹を立てたようで、今にも扉を無理矢理こじあけそうな勢いだったため、レキはクローレンを引っ張りその場から引き離すことにした。

「おい離せよレキ! 魔法なんかより剣術のほうがよっぽど優れてるってことをさっきの店の店主にわからせてやる!」


 クローレンはどうやら魔法が全く使えないらしい。

 誰にでもある程度の潜在魔力はあるというが、それを魔法に変えられるかどうかは本人次第だ。
 潜在魔力を魔法に変換することではじめて「魔法が使える」ということになる。

 一般的には、潜在魔力をほとんど持っていない者は変換することも苦手で、魔法が使えない者が多かった。


『落ち着いてよクローレン。その分キミがすごく剣術が得意だってことはわかってるから』

 レキはクローレンを引っ張りながらなだめた。
 このジルカールまで来る間に何度かモンスターとも遭遇し、お互いの実力をある程度は認識していた。

 クローレンはかなりできる人物だ。フォンほどではないが、偽フォースを語るだけのことはある。
 以前カルサラーハで吹いていた「ドラゴンの群を一人で蹴散らして〜……」の話はどこまで本当だかわからないが、そのあたりの旅人とは比べ物にならないくらい強いだろう。


「チッ! オレだってちょっと練習すれば魔法くらい……!」

 クローレンはまだ少しブツブツ言っていたが、レキに促されてその場を後にした。

 再びポンポンいわせながら通りを歩きはじめた二人だったが、クローレンは若干不機嫌なままで、その音にさえイライラしているようにみえる。


「チ……!この街はなんだかオレの性には合わねーぜ。なぁレキ、酒が飲める店でも探そうぜ!」

 クローレンの提案にレキはずっこけた。

『ジルカールにはそんなことをするために来たんじゃないよ! フォースの情報を集めるのと、世界一の魔導師に会うために来たんだから』

 レキの言葉にクローレンはチッチッチと指を振る。

「わかってねぇな〜レキ。情報を聞き出すと言えば、まずは酒場と相場は決まってるんだぜ!」

『……でもクローレンの場合、単に酒が飲みたいだけなんじゃないの?』


 少し腑に落ちないレキだったが、クローレンの言うことも一理あるということで、二人は酒場を探すことにした。

『魔法都市にも酒場なんてあるのかな?』

「酒が飲めるところっつーのはどんな街にもあるもんなんだよ!」


 クローレンの言うとおり、酒場はすぐに見つかった。
 街の中心部からはすこし外れたところにあるものの、客足はなかなかいいようだった。

 店の中では、旅人やジルカールに住む魔導師が、まだ昼間だというのに酒を片手にワイワイとにぎやかに騒いでいる。


「おーいマスター! こっちにも酒くれー!」

 クローレンは店に入るなり椅子にかけると、早速酒の注文をはじめた。

『ちょっとクローレン! 飲みに来たわけじゃないってば!』

「まぁまぁ〜固いこと言うなよレキ、一杯だけだから!……お前も飲むか?」

 クローレンは見るからに活き活きとしていた。よほど酒が好きなようだが、今まで酒を飲んだことのないレキにとっては、その良さが全くわからない。


『……いらない』

 レキはハァ、と大きくため息をつくと、役に立ちそうもないクローレンをその場に残し、一人で情報を集めることにした。

 端から順に声をかけようと店の中を横切るレキに、後ろからクローレンの「プハー! 生き返るぜー!」という声が聞こえていた。



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