グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第六章〜
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「いやー、キミは運がいいなぁ。フォース様ならちょうど昨日からこの港町に滞在されてるよ!」
次の日、カルサラーハの町でレキがフォースについての聞き込みを開始するなり、早速こんな答えを聞いた。
『え! この町に今、フォースがいるの!?』
レキは思ってもいなかった答えに驚き、思わず聞き返してしまった。
今までの大陸では、誰に聞いてもフォースについての情報さえ全く手に入らなかったのに、リアス大陸に来た途端、これほど簡単にフォースのことを聞けるとは考えてもいなかった。しかも今現在、この町にいるという。
「そうだよ。きのう北のアルキタ大陸からの船に乗って、このカルサラーハにやって来たんだ。もう昨日は町中すごい騒ぎだったよ!」
レキが声をかけた雑貨屋らしき店の主人は、興奮した様子でその時のことを詳しく話し始めた。……船から降り立ったフォース様はとても立派で強そうな人だったとか、胸にある紋章はとても神聖であったとか、話し始めると、その賛辞はとどまるところをしらない。
『……で、そのフォース様は今この町のどこにいるの?』
レキはついに待ちきれなくなって話の途中に口を挟んだ。その言葉に雑貨屋の主人は、はたと我に返り、つづきを区切る。
「フォース様ならこの町のもう一軒の宿に泊まってるはずだよ。ちょうど町の中心辺りだね。きっと今日も、町のみんながたくさん集まっているはずだから、行けばすぐ分かると思うよ」
『そっか、ありがとうおじさん! 早速行ってみるよ!』
レキはその言葉を聞くなり、お礼を言うと全速力で町の中心へと駆けて行った。
昨日、レキがカルサラーハに着いた時にはもう夜になってしまっていたため、聞き込みは明日からとして、港近くの宿で一泊していたのだった。
まさか同じ日にフォースが来ていたとは全く気づかなかった。
しかし、それにしてもすごい偶然である。
こういう偶然が、出会うべき運命とでもいうのだろうか。
こんなに突然二人目のフォースに会えるとは思ってもいなかった。
一体、その「フォース様」とはどんな人なんだろう……?
走りながら、レキは期待に胸が膨らんだ。
これから自分と運命を共にし、“世界を破滅へといざなう者”を倒す使命をもった人物。また、これまで世界を一人で旅して探し求めてきた人物でもある。気にならないわけがない。
そうしてしばらく夢中で走っていると、遠くに人だかりが見えた。
どうやらその人だかりは、フォースを一目見ようと集まった町の人や偶然訪れた旅人によってつくられているようで、その人数は建物に入りきらないほどのすごい数で宿屋におしかけていた。
『ごめん! ちょっと通してね!!』
レキは人だかりをすり抜け、ぶつかりながらも、なんとか宿屋の中へとたどり着くことができた。
『えーと、フォースは……?』
宿屋の中はさらにすごい人だかりで奥の様子が全くわからなかったが、レキは人と人との隙間から背伸びをしたり、ジャンプをしたりして、なんとかフォースの姿を見つけようとがんばった。
そして何度目かのジャンプでついに、その中心で椅子に腰掛けている一人の男の姿を見つけた。
『……え。あの人かな?』
レキがついに見つけたフォースらしき男の第一印象は……なんだか思っていた想像とは少し違うような気がした。
それは単に男の容姿や見た目の問題ではない。
その男はまだ若く、おそらく年は十代後半から二十代前半といったところだ。そして短い茶髪に、耳にはいくつかのピアスをしている。
肌の色も、髪とよく似ている焼けた褐色をしており、なかなか腕っぷしが強そうな体つきをしている。
それだけでは特に問題はないのだが、その男の前には町の人達が持ち寄ったであろう豪華なご馳走がたくさん並べられており、まだ真っ昼間だというのに男は豪快に酒を飲みながら、周りにはべらせた何人かの女性達に愉快そうに話をしていた。
「そんでよー! オレはたった一人でドラゴンの群を蹴散らして、そこで言ってやったのさ!『ドラゴンなど、仮に100匹来ても恐れるに足りん! このクローレン様の相手にもならんわ!』ってなー!! あれは決まったぜ〜!!」
わはははは!と男が豪快に笑う。それに合わせて周りの女性達が口々に黄色い声をあげた。
「クローレン様素敵!」
「クローレン様、お強いんですね!」
男はその声にさらに気分を良くしたようだ。手に持っていたグラスの中身をぐいっと一気に飲み干すと、宿屋の主人に声をかけた。
「お〜い、おっさん! もっと酒持って来てくれ〜!!」
「はい! ただ今!」
宿屋の主人は声が掛かるなりそう叫ぶと、次々にその男の前に酒の入った瓶を運んでゆく……。