グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第五章〜
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〜第五章〜「グランドフォース」
ここはルートリア大陸のなかで最も大きな国エレメキア。
生まれた時から白く輝く紋章グランドフォースをもつエレメキアの王子は12才に成長していた。
まだ自らの背負う運命を知らされていない王子は王宮で平和に暮らしている。
今日もその王宮では、国の補佐兼王子の教育係である家臣・ニトの声が響いていた。
「王子〜! レフェルク王子〜!!」
キョロキョロとニトが城内を探し回る。今から剣術の稽古の時間だというのに王子の姿がなかった。きっとまたどこかに逃げ出しているに違いない。
「まったく……、毎日探し回るワシの身にもなってほしいものじゃ」
ニトはぼそりとそんな事をつぶやくと、家臣の一人であるティオの部屋に行ってみることにした。王子は困ったことがあるといつもそこへ逃げ出す癖がある。
ティオというのはまだ13才の少年だが、その父親はエレメキアの軍事大臣を務めており、ティオはそんな父を目指しつつも今は家臣見習いといったところだった。王子とは年が近いこともあり、王子とティオはとても仲が良かったのだ。
「ティオ、入るぞぃ」
ティオの部屋に着くなりニトはそう言うと、返事も待たずにドアを開けた。
「あ……ニト様!」
突然のことで慌てるティオの後ろに、誰かがサッと身をかくした。
「レフェルク王子!! 一体そんなところで何をしていらっしゃるのじゃ!」
ニトにはすでにお見通しだった。
こうなってしまえば彼女をあざむく事など到底不可能だと知っていたレフェルク王子と呼ばれた人物は、ばつが悪そうに仕方なく、ティオの後ろからひょこっと顔を出す。
『ニト……、なんでボクがここにいるってわかったの?』
「王子のやりそうなことはなんでもわかりますぞ」
勝ち誇ったようにニトがシワだらけの顔をさらにしわくちゃにして笑う。
「さぁ王子、剣術のお時間ですぞ。すでに庭でバルドが待っておりますゆえ」
一度ニトに捕まってしまえば逃げることはできない。レフェルクはしぶしぶ稽古を受けることにした。
『ティオも一緒に練習しない?』
レフェルクが誘ったがニトにとめられた。
「ティオとの練習はまた次の機会にしなされ。今日は王子の特別訓練ですじゃ」
『あ、そう……』
がっくりと肩を落とすと、レフェルクはのろのろとニトについていった。
『……それじゃあティオ、またあとでね』
「はい、がんばってくださいね」
ティオは嫌々ながらに出ていく王子の姿を、せめて笑顔で見送った。
ティオの部屋を出ると、レフェルクとニトはバルドの待つ中庭へと向かって城内の通路を歩いていた。
『ボク、剣術なんかできなくてもいいのに』
歩きながらレフェルクがニトに文句を言う。
「いいえ、そんなわけには参りませんぞ。近頃はモンスターも狂暴化して物騒な世界になっておるのです。国王になられるお方ならある程度の剣の心得は必要ですじゃ。……それに」
ニトは王子の胸にある紋章のことを思った。
なにも国王になるためだけに王子に剣の稽古をつけているわけではないのだが、しかしそれはまだ話すべき時ではない。自分の運命を受け入れるには王子はまだ幼すぎる。
レフェルク王子にはまだ、フォースの伝説や紋章のことについては何一つ教えていなかった。
「……それに、王子は嫌がりながらも剣術はかなり良い筋をしておられるではないですか。剣の才能がありますぞ。バルドも褒めておりました」
ニトは代わりに、思っていた事とは別の言葉を引き継いだ。
だが王子に剣の才能があるということは本当だ。この幼さで、かなりできる。
『でもボク、本当は戦いが好きじゃないんだけどな……』
レフェルクはため息をつきながら小さく呟いた。
中庭につくと、剣の師であるバルドが準備万端で待っていた。
稽古にはもちろん真剣は使わない。限りなく本物に近いが、斬れないレプリカを使っている。しかし当たりどころが悪ければ怪我をするだろう。
レフェルクはバルドに剣を渡され、それを構えた。
「王子、それでは今日の訓練を始めさせていただきます。今からわたくしが攻撃を仕掛けますので、全て避けるか受け止めるかしてください」
『わかった』
稽古を嫌がっていた王子だが、剣をもつと真剣な表情に変わった。遊び半分では、危険だということを重々わかっているからだ。
「それでは……行きますよ!」
バルドが剣を構えて向かってきた。
素早く、レフェルクに向かってそれを振り下ろす。しかし、一撃目、二撃目とレフェルクは攻撃をなんなくかわした。
バルドは間合いを詰めたり、後ろに回り込んだりと何度も攻撃を仕掛けるが王子はことごとくそれをかわしていく。
ニトはその様子を近くで眺めていた。
バルドの剣の腕は、この国でも一・二位をあらそうほどだったが、王子の練習相手にはもうならないかもしれない。
もちろん王子が強くなったことも理由のひとつだが、毎日訓練をしていることによってバルドの動きはもう全て見切られていたのだった。
やはり同じ人間と何度も戦っているとその人物の攻撃パターンというものが見えてくる。そのため練習相手は何人か用意していたが、すでにみな王子に動きをよまれていた。
王子は三才の頃から剣を習ってきている。王子の生まれもった使命を考え、幼い頃から戦闘の英才教育を受けさせてきたのだ。
しかもそれは、国王になるための勉強よりも優先させてきたほどである。
「そろそろ次のステップへ進むべきかのぅ……」
ニトは一人、考えながらつぶやいた。
次はいよいよモンスターとの実戦を考えていた。危険も伴うが、いつかは通らなければならない道だ。なるべく早く、そしてたくさんの戦闘経験を積まなければならない。
ニトがそんなことを考えていると、バルドがレフェルクに向かって深く踏み込み、渾身の一撃を喰らわせようとした。レフェルクはしかしそれを避けず、剣で受け止めると、そのまま剣を振り抜いてバルドの手から剣をはじき飛ばした。
『へへっ、ボクの勝ちだね!』
レフェルクがバルドに剣の先を向け、にっこりと笑う。
「お見事です王子」
バルドも満足そうに微笑んだ。
「それでは、もう一度行きますよ。今度は王子も積極的に攻撃を仕掛けながら、わたくしの攻撃も避けて下さい」
『……えー、まだやるの?』
「もちろんです、まだ初めたばかりですから。……それでは参りますよ!」
それから約三時間、レフェルクはみっちりと特訓を受けたのだった。