グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第四章〜
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――ウェンデル・宿屋。
レキは目を覚ました。
ここは一体どこだろう……?
視界がまだぼやけていて、自分がどこにいるのかすぐにはわからない。
それに頭もぼーっとしている。
はっきりしない頭で少し考えていると、突然、倒れる寸前の記憶と光景が鮮明に蘇ってきた。
『そうだ……!! フォンは!?』
レキは慌てて起き上がり、キョロキョロと辺りを見回した。
しかし、すでにここは未開の地ではなく、家屋の一室であることに気づく。
この部屋の眺めには見覚えがある。ここはレキ達が泊まっているウェンデルの宿屋だ。
レキはいつの間にか宿屋に帰ってきて、ベッドに寝かされていたようである。
『フォン……?』
あれから一体どうなったのだろう。ドラゴンを倒したところまではなんとか覚えているが、そこからの記憶が全くない。フォンは無事だろうか?それに自分はどうやってここまで帰ってきたんだろう……。
その時、部屋のドアが静かに開けられた。しかし、入ってきた人物はレキが起きているのに気づくと大声で駆け寄ってきた。
「あ〜! よかった!! 気がついたのねレキ! 一時はどうなることかと思ったわよ〜」
リオネッセが心底安心したような顔で笑っている。
『リオネッセ! フォンは? フォンはどこ!?』
リオネッセを見るなり、レキが必死になって聞く。
リオネッセはその言葉に一瞬きょとんとしたが、「あ〜フォンなら……」と言いかけたところにまた別の人物が部屋に入ってきた。
「私をお探しかい? レキ」
そこには穏やかに笑いながら立っている、フォンの姿があった。
『よかった……、無事だったんだねフォン』
レキがほっとして言う。
「もちろんだ。無事じゃないのはキミのほうだったよ」
フォンが近寄ってきた。
「あれから急いでキミを姫のところまで運んで、癒しの魔法をかけてもらったんだ。かなり呪いが回っていたから本当に危険な状態だったんだぞ」
「そうよレキ。あなた丸二日間も眠ってたんだから」
右腕を見ると傷はもう消えていた。他にも全身にたくさんの切り傷があったが全て癒えている。
『そっか……。ありがとうリオネッセ、フォン』
レキがにっこりと笑った。いつものあの幼い笑顔だ。
「お礼を言うのはこちらのほうだよレキ。キミが残っていなければ、確実に私はあのモンスター達にやられていたことだろう。本当に礼を言う」
フォンは真剣な顔でお礼を言ったが、そのあとでちょっと怒った調子になった。
「……しかし、それにしてもキミはちょっと無茶をしすぎだぞ! 心配するこっちの身にもなってくれ」
「そうよ〜。フォンったらレキのこと、すっごく心配してたんだから! レキを抱えてきた時なんて、もう真っ青でね〜」
「……真っ青になっていたのは、姫も同じでしょう」
笑いながらフォンをからかうリオネッセに、フォンがぴしゃりと突っ込んだ。
『ほんとに心配かけてごめん。……ところでゼッド達は?』
レキは気になっていたもう一つのことを聞いた。
「あぁ〜、ゼッド達なら下にいるわよ。ゼッドの傷は処置が早かったからそれほど酷くならなかったし、もうピンピンしてるわよ」
リオネッセが言うと、ちょうどタイミング良くゼッド達が部屋に入ってきた。
「お〜レキぃ〜!! 気がついたかぁ! よかったよかった!」
「心配したんだぜ!!」
「もう大丈夫なのか?」
テリーとカザウスも口々にレキに話しかける。
『うん! もう大丈夫だよ。ゼッド達も無事でよかった』
「いや〜、それにしても散々な冒険だったぜぃ。結局お宝は何もなかったし、骨折り損もいいとこだぜ。また別のお宝を探しに行かなきゃなぁ〜」
ゼッドがやれやれとため息をつきながら言ったが、彼はすでに次の冒険へと頭を切り替えているようだった。
「あんた達……こりないわね」
その言葉に、リオネッセがあきれて言った。
「当たり前よ! オレ達はトレジャーハンターだからな! すっげえお宝を手に入れるまでは絶対にあきらめないぜ!」
カザウスもそう言って、わっはっはと豪快に笑った。
今回これだけひどい目にあったというのに、あきれるほど前向きな思考である。
しかし、その清々しいくらいの笑いにつられて一人、また一人と、皆も自然と笑顔になってしまい、いつの間にか部屋には六人全員の笑い声が響いていた。
それは一つの冒険を終え、困難を共に乗りこえたことによって生まれた絆ともいうべきものが、お互いを認め合った瞬間だったのかもしれない。
今回の冒険で財宝を手に入れることはできなかったが、彼らの笑顔は、もっと別のすばらしい何かを得たようにもみえた。
「レキ、もう傷は癒えてるけど、念のため今日一日は安静にしててね」
ゼッド達が部屋から出て行ったあとでリオネッセが言った。
『うん、わかったよ』
レキは素直に従うと、それからまたすぐに眠りについた。
「……無邪気ね〜。モンスターと戦ってた時と比べると、とても同じ人物だとは思えないわ」
レキの寝顔を見ながらリオネッセがクスクスと笑った。
「そうですね」
フォンも小さく笑う。
「ねぇフォン……、この部屋に泊まることになってよかったわね」
リオネッセはふと思ったことをつぶやいた。
「そうですね」
フォンがまた頷く。
「……フォンったら最初はレキのこと、あんまり信用してなかったのに」
素直に頷くフォンに、リオネッセは可笑しそうに笑いながら、からかった。
「そ、それはそうですが……、今はもう彼には疑う余地はありません」
リオネッセの言葉にちょっと焦った様子のフォンだったが、それでもすぐに気を取り直すと、彼は自信をもって当然のごとく言い切った。