グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第二章〜
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同じくランガ大陸、南の町テセラ――。


 そこはウェンデルと同じく、エスト王国が治める町のひとつだ。
 ウェンデルほどではないが旅人の行き来も多く、たくさんの商店が並んでおりなかなか活気のある町である。

 その町の中のひとつの武器屋で店主と話し込んでいる女性がいた。
 女性と呼ぶにはまだ少し幼さが残り、年齢でいうとたぶん16才前後である。
 彼女は明るい茶色のゆるやかなウェーブのかかった長い髪をしており、横髪は頭の後ろに流し金の髪どめで軽くまとめている。髪と同じ茶色の瞳はぱっちりと二重でとても美しい。
 白のローブにピンクのストールをまいたその姿はどことなく優雅さをただよわせていた。


「残念だがこの店には来たことはないぜ」

 店主がこの古びた武器屋には、あまりにも不釣り合いな綺麗な少女に多少おどろきながら、少女に向かって答えた。

「そうですか……。この辺りでもそのような噂は全く耳にされませんか?」

「ああ、噂も聞いたことがないぜ。もしこの辺に一度でも来てたらすげぇ噂になったはずだからな。でも今のあんたみたいに探しにくる奴はこれまでに何度かいたがなぁ」

 少女はお礼を言って店を出た。
 店を出るとちょうど、背が高く、長い銀髪を後ろで一つに束ねた目の鋭い男が少女に近づいてきた。

「そちらはどうでしたか?」

 見た目で受ける印象とは違い、丁寧な言葉遣いで男が話しかける。

「ゼ〜ンゼンだめよ! 手がかりなしだわ!」

 やれやれ、といった様子で少女がお手上げの格好をする。
 さっきの優雅さと言葉遣いはどこへやら?少女も見た目の印象とは違う、くだけた様子で答えた。

「フォンのほうはどうだったの?」

 少女にフォンと呼ばれたその男は、そう問われると残念そうに首を横に一つ振る。

「こちらもですよ。有力な手がかりは何一つありません」

 彼はさらに小さくため息をついた。

「これだけ大きな町でも、紋章をもつ者を見たことがある人はいないようですね。噂さえ聞かないそうですよ。やはりこの大陸にもグランドフォースと呼ばれる方はいないのでしょうか……」

「う〜ん……まだわからないじゃない。ここから少し北西に行ったところに、この大陸一の都・ウェンデルがあるわ。そこならきっと何か情報が手に入るわよ! うん! なんだかそんな予感がする!」

「……姫のカンはよく外れますからね」

 フォンはボソッとつぶやいたが少女には聞こえていたらしい。頭に一発ポカリと制裁をくらった。

「フォン! 余計なことは言わなくていいの!」

 少女は口をとがらせつつ、ムッとした表情でフォンを睨んでみせる。たしかにこの少女、あまり勘の働くほうではなかった。

 これまで二人は主に少女の言うとおり、いろいろな地を旅してまわっていたのだが、今のところ彼等の目的は達成されることなく、それらは全て空振りにおわっていた。

「冗談ですよ、姫」

 フォンはそこで「姫」と呼んでいる少女に向かってフッと表情をやわらげる。

「ウェンデルに行くのは私も賛成です。人の多い場所には、自然と情報も集まるものですからね」

 フォンの改められた言葉に、少女は少しだけ気を取り直したようだった。ま、いいわ、とでもいうように軽く肩をすくめると、再び気合いを入れ直す。

「それじゃ、早速ウェンデルに出発するわよ!」




 この「姫」と呼ばれている少女と、その従者「フォン」は紋章をもつ者・フォースを探し出し、守護することを目的に各地を旅していた。

 今二人がいるランガ大陸のとなりに位置するルートリア大陸。少女はそのルートリア大陸にある国の一つ、セルフォード王国の王女であった。

 ルートリアは非常にモンスターが狂暴化している大陸の一つで、セルフォード王国以外にもいくつかの国があったが、どの国も少なからずモンスターの被害を受けていた。

 それぞれの国は軍事力を高め、モンスターに対抗してきたがその形勢は徐々に悪くなるばかりであった。

 ルートリア大陸では、ある日突然モンスターの大群が攻め込んでくることもあり、そのターゲットとなった街や国などはすでに滅んでしまっているところもあるほどだ。

 少女の国セルフォードも、いつそんな状況になってもおかしくはなかった。王宮の兵士たちは国を守るため、日々モンスターとの激しい戦いを繰り広げている。

 しかし、いくらモンスターを倒してもきりがなかった。悪の根源を絶たなければモンスターはいくらでも生み出されてしまう。

 そこで人々の唯一の希望は、伝説に記されている“世界を破滅へといざなう者”を倒す力を持つ、勇者グランドフォースだった。
 フォースなら伝説どおりきっと、世界を破滅へといざなう存在を倒し、再び平和を取り戻してくれる、人々はそう信じていたのだ。

 しかし、その肝心のグランドフォースは、まだいっこうに現れる気配はない。
 それどころかあまりにも現れるのが遅いため、すでにモンスターに殺されてしまっているんじゃないかという噂まで流れていた。

 もしも本当に、紋章の力を発揮できるフォースがすでに殺されているならば世界はおわりだ。紋章の力なしに“世界を破滅へといざなう者”を討ち破ることはできない。

 それゆえモンスターはフォースの命をしつこくつけ狙っているという。

 モンスターが最も恐れているのは紋章の力。なによりもフォースを抹殺することを最優先に動いているらしい。

 そうなればなんとかモンスターよりも先に紋章をもつ者を見つけ出して守らなければならない。いくらフォースといっても、一人だけの力ではモンスターに殺されてしまうかもしれない。
 人々の唯一の希望をモンスターに消されるわけにはいかないのだ。

 そこで王女は自ら立ちあがった。じっとしているのは性分に合わなかったため自分でフォースを探しに行くことにしたのだ。


 もちろん最初は国王も反対した。しかし、今は国にとどまっていても、いつモンスターの大群が攻めてくるかわからないので安全とも限らない。
 それならば王女のやりたいように、やらせてみようということになったのだ。

 セルフォード王国には他国のように、国の総力を上げてフォースを探し出すという余裕はなかった。兵士は国を守ることで精一杯だったのだ。

 王女は非常に強い魔力をもっており、魔法のエキスパートだったがやはり一人ではあまりにも危険だ。そこで護衛役として、セルフォードでも最強の剣士と呼ばれている家臣のフォンを旅の共につけることにした。

 この二人がグランドフォースを見つけ、世界に平和を取り戻してくれることを願い国王は二人を送り出したのであった―――……。



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