グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第一章〜
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 朝食はどれもとてもおいしく、特に今朝とれたばかりの野菜で作ったサラダは絶品だった。

 レキが朝食をとりおわると、宿屋には交代で村の人が次々と訪れ、しばらくはみんなと雑談して過ごした。
 せまい村なので今日レキが出発するという話がもう広まったのだろう。みんな顔を出してはレキに声をかけていった。

 やっと客が途絶えたときにはもう昼前になっていて、レキは急いで二階に上がると、二週間過ごした部屋をきれいに片づけ、自分の荷物をまとめあげた。

 そして再び荷物を持って下に降りようとしているところで、一階からなにやらスージーの「ええっ!?」というひどく驚いた声が聞こえてきた。

『……? どうしたんだろ?』

 気になったレキはまた一度荷物を置き、一階へと降りていった。



「本当にミーリが?」

 レキが食堂に降りると、スージーがたった今宿屋を訪ねてきた様子の老人に、不安げに問い返している姿が目に入った。
 その老人は村の一番外れに住む村長だ。

「そうじゃ、まちがいない。今朝早くに村の外に出ようとするミーリと会ってのう。どこに行くのかと聞いたら、村より少し北にある星の湖に行くと言っておったんじゃ」

 村長は降りてきたレキにも気づき、ちらりと視線を向けながらさらに続ける。

「その辺りはモンスターも出るからと止めたんじゃが、それくらいのモンスターは自分の魔法でなんとかできると言って聞かなくてのう。しばらく待ってみ
たんじゃが……実はまだ帰ってこんのじゃ。まさかミーリの身に何かあったのではないかと思ってのう……」

 村長はいくらなんでも帰りの遅すぎるミーリが心配になり、知らせに来たようだ。その様子は心からミーリの身を案じている。

「星の湖……ここからそんなに遠くないわ。何事もなければもう十分帰って来てる時間なのに……」

 スージーも村長の話に、さらに不安そうな顔をして言った。

「どうしましょう……ミーリにもしものことがあったら……」

 モンスターの脅威が常に身近にある生活なので、この辺りの人は護身のため子どもでも簡単な魔法や剣術をすこしは習っていた。しかし、だからといってモンスターと遭遇しても大丈夫というわけではなく、それはほとんどカタチだけのものである。
 実際にモンスターと戦ったことのある人なんて大人でもこの村にはほとんどいない。


『オレがミーリを探しに行って来るよ』

 二人の話を聞いていたレキがすぐさま言った。
 スージーと村長が同時にレキを見る。

「でも……危険だわ。もしもレキ君にまで何かあったら……」

『大丈夫! オレはもともとこの村の外からやって来たんだから。ちょっとくらいモンスターが出たって平気だよ。ミーリはオレが無事に連れて帰ってくるから、二人は安心して待ってて!』


 そう言うとレキは二人に向かってにこっと笑いかける。

 笑うと14才よりももっと幼く見えるレキだったが、その幼い笑顔はなぜか二人を不思議と安心させるようなものであった。




ユタの村・郊外北――。

 この村から北に向かってまっすぐ行ったところに星の湖はあるらしい。
 基本的には一本道だが普段人の通りが全くないことに加え、木や草がうっそうと生えている林をとおって行かなければならないので道らしい道はなかった。

『こんなところ、よく女の子が一人で行こうと思ったな……』

 草をかきわけて進みながらレキがつぶやく。

 ミーリは星の湖とやらに、なにかよっぽどの用でもあったのだろうか。ここはモンスターだって出るし、相当の理由がないとなかなか来ようとは思えないだろう。
 小さな女の子にとってここがどれほど怖い場所であるかを考えるとレキはミーリがとても心配になった。


『ミーリ! どこにいるのー!?』

 走りながらレキは叫ぶ。

 なんだかここはいやな感じだ……。村の周りにはそれほど強いモンスターは出ないとスージーも村長も言っていたが、この辺りの異質な気配をレキは感じとっていた。

 しばらく走りながら湖をめざしていたが、辺りがさらにうっそうとして視界が悪くなってきた矢先に、突然前方から女の子の悲鳴のような声が聞こえてきた。

『ミーリ!!』

 その声に、レキは反射的に背中に背負っていた剣を抜くと、全速力で声のするほうへと向かって行った。




 ミーリは追って来る二匹のモンスターから必死で逃げていた。使える唯一の魔法は効かなかった。
 誰にでもある潜在的な魔力を光にかえて攻撃するものだったが、ミーリほどの力ではモンスターにほとんどダメージを与えることができなかったのだ。
 
 走り疲れてついにミーリは転んでしまう。それによってモンスターが追いつきミーリは一本の木に追い詰められた。
 

 じりじりとミーリに近寄って来る二体のモンスターは大きな緑色の体をしている。
 頭の上には一本の角が生え、眼はヘビのような眼が顔の真ん中にひとつだけある。そしてキバをむき出し、鋭い爪をミーリに向けて今にも襲いかかろうとしていた。


「た、たすけて……」

 泣きながら震えるミーリを見て一体のモンスターはにやりと笑うとそのままミーリに向かって飛びかかって来た。


――キィン!!


 かたい金属音が辺りに鳴り響いた。
 ギリギリ間に合ったレキがミーリの目の前でモンスターの振り下ろされた爪を剣で受け止めていたのだ。

 あまりの出来事にミーリはパニックになっていて言葉がでてこない。

 レキが一匹のモンスターの爪を受け止めていると、今度は横からもう一匹がレキめがけて襲いかかって来た。

 レキはおもいっきり力を込めて剣を振り払い、爪を受け止めていた自分より大きなモンスターを吹き飛ばすと、またすばやく剣の向きを変え、そのまま襲いかかって来たもう一匹のモンスターを斬りつける。

「ギャァァ!!」

 激しい悲鳴とともにモンスターは倒れた。

 それを見ていたもう一匹のモンスターは一瞬恐ろしい眼でレキを睨んだが、レベルの違いを悟ったのかそれ以上襲って来ることはなく、そのまま林の奥へと走って逃げていった。

 モンスターが見えなくなるまでその後ろ姿を見送ったあと、剣をおさめたレキはミーリのほうを振り返る。


『ミーリ、ケガはない?』

 やさしく微笑むレキを見て、緊張の糸が切れたミーリの目からは大粒の涙が溢れ出た。


「……うっ……わぁぁあん!! 怖かったよぉぉ……!!」

 大声で泣きじゃくるミーリを慰めようと、レキは自分より少し背の低いその頭をポンポンと優しくたたいた。



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