グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第十六章〜
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〜第十六章〜「戦慄」
「私を助けに? あなた一体……?」
足枷を解かれたばかりの少女は、なにがなんだかわからないといった様子で目をぱちくりとしてクローレンを見ていた。
突然降ってきただけでも驚くというのに、唐突な男の物言いと行動に、少女――ルーシィは盛大に戸惑っていた。
「あ〜自己紹介が遅れたな。オレはクローレン。まぁなんつーか、正義の旅人ってとこだな。ここに来る前にあんたのじーさんに会ったぜ」
カシン、と小さな金属音を響かせながら、クローレンは剣を鞘へと戻す。と同時に、よろけて壁へと追いやられてしまっていたルーシィをぐいと引き寄せ、しっかりと立たせた。
「お爺さまに?」
「そーそー。んでこの街の事情を聞いてよー、捕われてるアンタを助けてくれって頼まれたわけだ。ま、他にも用事はあるっちゃあるんだが……とにかく、お前を助けにここまで来たんだ。敵じゃねぇから安心しろよ」
それだけを一気に言い終えると、クローレンは相変わらずぽかんとしたままのルーシィから目を離し、あらためて自分達の今いる場所を確かめようと辺りを見回した。
全体の面積はかなり狭く、円柱状に切り抜いたような穴の壁はレンガ状の石がいくつも重なりあってできている。
地上からの深さは5、6メートルといったところで、石壁をつたって登ろうと思えばすぐにでも登れるくらいの高さだった。
「ここ、街が燃やされる前は井戸だったの。今はもう干上がってしまって水もないけど……」
辺りを観察しているクローレンに向かって、ふいにルーシィがつぶやいた。
「ふーん、そうか。上からだと全然わからなかったぜ。入り口には灰とかガラクタが積もってて、穴なんかパッと見、なかったからな」
おそらくそれでモンスター達もこんなところに井戸があるとは気づかなかったのだろう。クローレンが彼等の視界から消えた時に、ちょうど煙幕が充満していたのも都合が良かったようだ。
「……えと、クローレン?」
「ああ?」
地上を見上げているクローレンに、ルーシィが遠慮がちに問いかける。その表情はまだ驚きを残したままだ。
「あなた、本当に私を助けに来てくれたの?」
「ん? こんなところで嘘ついてどーすんだよ。そうだって言ってるだろ。まー、そう言うオレもここまでモンスターに追われて来て、あんまり説得力ないけどな!」
はっはっは!とクローレンが豪快な笑い声をあげる。しかしその口はまたすぐに、慌てたルーシィによって塞がれることになった。
「むぐぐ、なにすんだ」
「静かにしてっ! さっきも言ったけど、そんな大きな声出したらモンスターに気づかれちゃうでしょ」
「む、そりゃそーだ」
もっともなことを言われ、クローレンは素直に声を落とした。幸い、今は近くにモンスターはいなかったらしく、クローレンの笑い声は多少外に漏れていたとしても、モンスター達に聞こえるまでには至らなかったようだ。
「ワリィ、ワリィ。どーも静かにするってのは苦手なほうでよ〜」
「……そんな感じするわね」
ルーシィはちょっとだけ呆れたような表情をすると、すぐに手を離した。
しかし、本気で呆れていたわけではなかったようで、そのままじっとクローレンを見ると、少しだけ顔をほころばせた。
「ありがとう……。まさかこんなところまで助けに来てくれる人がいるなんて思わなかった。……私、なんとか自分で逃げ出さなきゃと思って、モンスター達にバレないようにここまで逃げてきたんだけど……、なんだか急に……見つかった時のことを考えると怖くなってきちゃって、ここに隠れてから一歩も動けなくなって困ってたんだ……」
ルーシィは気丈に見せてはいるが、こんなモンスターの街に一人残されたストレスは相当のものだっただろう。いつ殺されてもおかしくない恐怖に、決して助けは来ないという絶望感。自力でなんとかここまで逃げてきたものの、彼女の気力は失われる寸前だったに違いない。
「……ま、安心しろよ。このオレ様が来たからには、もう心配いらねーからな。こう見えてもオレは結構強ぇんだぞ」
「そう言いつつ、モンスターに追いかけ回されてたみたいだったけど」
からかうようなことを言いながらも、ルーシィは嬉しそうな表情をした。クローレンの言った言葉に、少なからず本当に安心させられたようだ。誰か自分を助けに来てくれた存在が、目の前にいるという状況だけでも、彼女の心にはとてつもない救いになったことだろう。
「ありがとう、クローレン。……頼りにしてもいいの?」
「おー。お前は無事に連れ帰ってやるよ」
クローレンはまた地上を見上げながら言った。周りの石壁を確認しつつ、そこから上へと登ることに意識を移す。
何気なくかけられる言葉に、ルーシィはまた嬉しそうに安心した表情になった。
「あ、そうそう。でもちょっと寄り道していか? いったん街の中心部まで行かなきゃならねーんだ」
「え! 中心部に!?」
「おう、逃げてきたトコ悪ぃけどな。実はオレともう一人、仲間と一緒にここに乗り込んで来たんだけどよー。途中でモンスターに追われちまって、そん時二手に分かれたんだ。街の中心で落ち合う約束してんだよ」
「……そうなんだ。……中心部ね」
ルーシィはちょっと不安そうに呟いた。あまりその場所には行きたくないような、そんな様子が見て取れる。
「……実は街の中心部は、この街を制圧したモンスターのボスの管轄になってるの。一見、他のモンスターはいなくて安全に見えるんだけど……すっごく危険なところよ。本当にそこで落ち合う約束をしてるなら、仲間の人が危ないかも……」
「なに!? まじかよ」
クローレンは少し緊迫感が増したようなトーンで聞き返した。レキはクローレンよりもよっぽど強いし、おそらく大丈夫だとは思うが、それでも何か言い知れない嫌な予感がクローレンを襲った。
「なら、なおさら急いで行かねぇとな。悪いがちょっと付き合ってくれ。お前のことはちゃんと守ってやるからよ」
「……うん」
ルーシィはこくりと頷くと、クローレンの服の袖を軽くきゅっと握った。