グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第八章〜
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〜第八章〜「フォース解放」
店は跡形もなく破壊された。
かなりの爆発であり、自分も間違いなく大ダメージを受けただろうと思ったレキだったが、ふと目を開けるとまったくの無傷であることに気づく。
「……大丈夫ですか? みなさん」
レキはその声のするほうを振り返った。
そこにはスラが魔法でバリアーを発動させ、もともと店があったすべての部分を包みこんで立っていた。
店自体は爆発によって破壊されていたが、店の中にいた客はスラのバリアーによって全員無事である。
「な、なんだ突然……? 一体何事だ?」
客達は突然の爆発に、みな状況が把握できていなかったが、店の中にいた人々はほとんどが魔導師であり、それぞれに保護魔法を唱えるなどして身の護りを強化し始めていた。
「……さすがスラ。お前はたしか予知と防御魔法だけは得意だったねぇ」
まだ爆煙がもくもくと立ち上る中、老婆――魔導師イズナルが姿を現した。
「イズナル……!」
店の中にいた他の魔導師たちはその姿を見るなり驚いた。
「この騒ぎはお前の仕業か!? イズナル!」
「お前はどこか変な奴だと思っていたが……これはどういうつもりだ!?」
魔導師たちが口々に騒ぎ立てる。その様子に、イズナルは心底うっとうしそうな表情を浮かべた。
「まったく、雑魚どもがギャアギャアとうるさいね。そんなに騒がなくたってすぐにこの街ごと消し去ってやるよ。……ワシの正体がバレてしまった以上、もうこのジルカールに用はないからね」
「……なんですって!?」
イズナルの言葉に、スラは驚いた。
「この街はあなたが研究を続けるために、必要なはずでしょう? そのために長年正体を偽ってきたというのに……その街を自ら滅ぼすというのですか!?」
イズナルにとってもこの街は大事な研究施設であるはずだった。そのため、スラは最悪の事態でも、まさかイズナルがこの街を滅ぼすとは考えてもいなかったのだ。
「研究の続きはもっと別な場所でひっそりとすることにしたよ。最近じゃ、あの罠に引っかかる人間も少なくてね。このジルカールに留まる意味がもうあまりないのさ……」
レキはイズナルの罠があった店を思い出した。たしかに、最近はあまり人の出入りがないように思える店だった。
「もうここらが潮時でねぇ。このジルカールは、邪魔な“世界一の魔導師”と共に今日姿を消すのさ!」
イズナルはそこまで言うと再び魔力を強めはじめた。もう一度こちらにとどめの巨大魔法を放とうとしていることは間違いない。
スラもそれに合わせて防御魔法を強めたが、少し息があがっている。
強力な魔法を防ぐバリアーを広範囲にわたって作り出しているため、もう一度イズナルの魔法を防ぐのは、かなりの負担をかけることになるだろう。
『……イズナル!!!』
その状況をいち早く察したレキは、叫ぶと同時にスラの作り出したバリアーから飛び出した。
イズナルに魔法を撃たせる余裕をあたえてはならない。
レキは持ち前の速さで素早く剣を構え、今まさに魔法を放とうとしていたイズナルに向かって突進した。
「ム……!」
一歩間違えれば巨大魔法の直撃をくらってしまうような無謀な行動だったが、今回はその思い切りの良さが幸いした。
レキの思った以上の素早い攻撃に、イズナルは魔法を完成させることができず、魔力を解くと同時に持っていた杖でレキの剣を受け止めた。
――ギィン……!!!
レキの剣とイズナルの杖が鋭い音をたてて十字に重なる。
イズナルは見かけによらず、か細い老人とは思えないほどの力でレキの攻撃をギリギリと受け止めていた。
「なかなか素早いじゃないかボウヤ……。ならばこれはどうかね!」
イズナルが目をカッと見開くと同時に、強力な闇の衝撃波がレキを襲った。
あまりの至近距離だったため、避ける間もなくレキは後方へと吹き飛ばされる。
『うわっ!』
そのまま、ドシン!とおもいっきり壁に体を叩き付けられた。
「おい大丈夫か!? レキ!」
吹き飛ばされたレキのもとへクローレンがすぐさま駆け寄ってきた。
クローレンもすでに剣を抜いており、戦闘体勢を整えている。
『……あぁ、平気だよ』
かなりの衝撃だったため、レキが叩き付けられた壁にはヒビが入っていた。
もちろん叩き付けられた本人も無傷ではなく、レキの頭からは一筋の血が流れだしていた。
「平気ってお前……血、出てるぞ?」
絶対ちょっと強がってるだろ……とでも言いたげなクローレンがレキの額を指す。
『これくらい、なんてことないよ』
レキは流れる血をぐいっと腕でぬぐいながら立ち上がったが、若干よろめいた。
さっきの闇の衝撃波の影響で、まだ頭がクラクラする。
「……ホホホ! どうやら効いたみたいだね。さっきの波動をあれだけ浴びれば、どんな者でもしばらくはまともに動くことができないよ。……わかったらそこでおとなしく…――ぬあぁっ!!?」
イズナルはそう言いおわる前に驚きの叫び声をあげた。
動けないはずだと思っていたレキが間髪入れず、再びイズナルに向かって飛び出し、攻撃をしかけてきたのだ。
「……キサマ! なぜ!?」
思いもよらない反撃にイズナルの防御は少しだけ遅れたが、間一髪でレキの剣を受け止めることに成功していた。杖を構える手に、再びギリギリと力を込める。
『……今だ! クローレン!!』
しかし、目の前の少年の叫びにさらにドキリとした。
気がつけば、いつの間にかイズナルの真横に回り込んでいたもう一人の男が、剣を構え今まさにそれを振り下ろそうとしている姿が映った。
「っしゃー! まかせろー!!」
レキの呼びかけに応えると同時に、クローレンはイズナルめがけて剣を振り下ろす。
「……チィッ!!」
イズナルは、やむなくレキの剣を受け止めていた杖を手放し、後ろへ跳んだ。
杖がカラカラと音をたてながら転がる中、さっきまでイズナルが立っていた場所に――ガシン!と大きな音をたて、クローレンの振り下ろした剣が地面に突き立てられた。
「……げぇ。避けやがった! おっそろしく素早いババァだな」
クローレンはそう呟きながらも、すぐさま突き立てた剣を抜く。だが視線はしっかりとイズナルを見据えたままだ。
その間にレキはイズナルが落とした杖を拾い、それをスラへと投げて渡した。
杖がなければ魔法は少し威力が落ちるはずだ。
「これは私が預かっておきますよ、イズナル」
スラがイズナルの杖を手にしながら静かに言った。
しかしイズナルは、そんなことはまったく聞いていないかのような様子で、ただひたすらに邪悪な目でレキを見つめていた。
それは見つめるというよりは観察しているといった表現のほうが正しいかもしれない。
「……ボウヤ、お前は何者だい? 普通の人間なら、ワシの波動を受けて動けるはずがないんだがね」
そう言うとイズナルはこれまで見せたどんな顔よりも邪悪で凶悪な顔つきになった。
「………よっぽど特殊な人間以外はねぇ」
イズナルからビリビリと鋭い殺気が走った。
さっきまでとはうってかわって、この場を包む空気も一瞬にして凍りついたようになる。
あまりの恐ろしい空気に、その場にいた街の魔導師の何人かは悲鳴をあげて逃げ出した。残った数人も、ただならぬ気配に保護魔法を強めてみたがみな微かに震えている。
もはや、先ほどのようにイズナルに野次を飛ばせるような状況ではなかった。
「ボウヤ……、お前は何者かと聞いているんだがね? 黙ってないで答えたらどうだい?」