グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第九章〜
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「……ふーー。やっと、終わったな」

 クローレンはイズナルの最期を見届けて安堵のため息をつくと、足下に転がっていた小さな石に気付き、それを拾い上げた。

「ほらレキ、お前の石。奴が落としていったぞ」

 クローレンはレキに向かって星型の石を投げてよこした。

『……え? あ、ありがと』

 レキはそれを空いている左手でキャッチして受け取った。
 そしてそのまま、ポカンとした表情でクローレンを見つめる。

 既にレキから怒りの感情は消え失せていた。


『クローレン? その……もう大丈夫なの? イズナルの魔法……』

 クローレンからはもう邪悪な気配を一切感じなかったため、大丈夫なことはなんとなく分かってはいたが、どうして突然元に戻ったのか訳がわからず、レキはつい尋ねてしまった。

「あー、なんかお前の光で正気に戻ったぜ。そのグランドフォースの光で」

 クローレンはあっさりと言うと、レキの左胸を指差した。
 そこには未だにキラキラと淡い光を放っている、グランドフォースの紋章がはっきりと顔を出していた。それを見つめながらクローレンはしみじみと呟く。

「まっさかお前が本物のグランドフォースだったとはなぁ〜……。このオレにも秘密にしてたなんて! マジ、ありえねぇぜ!!」

 最後のほうでクローレンはちょっとムスッとした顔を作る。

 あたりまえの話だが、もうクローレンにはレキがグランドフォースであることが清々しいくらい完全にバレていた。

 あれだけフォースの証である聖なる光を放ち、紋章を露出して戦っていたらそれは当たり前の事だろう。


『えーと……』

 レキはそれでもなんとか誤魔化せないものかと一瞬考えたが、ここまできてそれは不可能だと悟り、ただ一言、認める意味の謝罪の言葉を呟いた。


『……ごめん』

「ん? まぁ謝るなよ。そのことについては後でたっぷり追及してやるから覚悟しとけ。……それに今、謝るべきなのはオレのほうだからな」

 そこまで言うと、クローレンは急に真面目な顔になった。

「……悪かったな。モンスターにされてたとはいえ、あんな酷ぇこと……」


 どうやらクローレンはモンスターにされていた時の記憶もしっかりとしているようだった。
 心底申し訳ないという表情で、落ち着きなくガシガシと頭を掻いている。

『……ううん、気にしてないよ。あれはクローレンの意志じゃないんだし。……それより本当に、元に戻ってよかった』

 レキはほっと安心したように呟くと、そのままにっこりと笑った。
 今、目の前にいるのはまぎれもなく、レキのよく知るいつものクローレンだった。
 どうやら完全に元に戻っているようで、レキは心から安堵する。


「あぁ……、なんか心配かけて悪かったな」

 そんなレキの様子に、クローレンはさらにもう一度だけ謝った。
 モンスターにされていた時の対峙するレキの表情を思い浮かべると、彼にとってはまだ謝っても謝り足りない思いだった


『ううん。戻ってくれたんだから、それはもういいんだよ。……あとはスラが……大丈夫かな』

 レキももう一度クローレンの謝罪を制すると、気がかりだったスラ達のほうを振り返る。

「……あぁ、やべぇ……そうなんだよな。オレ、スラに一番酷い事を……」

 レキの言葉に、クローレンは落ち込んだように呟いた。
 最も謝るべき相手なのは、重傷を負わせてしまったスラに他ならない。
 また、レキも同じくスラの怪我には責任を感じていた。スラが傷付いたのはレキを庇ったせいでもあるからだ。

 二人はそのことを気に病みながらも、スラのほうへと向かった。




『スラ、……大丈夫?』

 レキが心配そうに声をかける。
 そこにはまだ傷が完全には治っておらず、癒しの治療を受けながら、それでも意識をしっかりと取り戻しているスラがいた。


「……はい、処置が早かったのでもう心配はいりません。それより、お二人が無事で、クローレンさんも元に戻ることができて……よかったです」

 スラが優しい笑顔で迎えてくれた。
 その様子に、クローレンはすぐさま頭を下げ謝罪をする。

「本ッ当すまなかった、スラ……!! オレは女のお前にそんな深い傷を……」

 しかしスラは相変わらず微笑むと、クローレンの謝罪を優しく制止させた。

「気になさらないでください、これはあなたのせいではありませんよ。……それに癒しの魔法にかかれば、多少時間はかかりますが傷跡も残りませんから」

「そ、そうか」

 クローレンがホッと胸をなでおろす。
 さらにスラはその隣で申し訳なさそうな顔をしているレキのほうへも向き直った。

「レフェルク、あなたも気に病むことはありません。あなたを守れた事は本当によかったと思っています。……こうしてフォースを解放する事もできましたし」

 スラはレキからまだ微かに光る、聖なる光を見つめながら言った。
 もう光の剣は消え、爆発的なフォースの光も消えかけていたが、今回の経験はこの少年にとって、今後とてもプラスになるであろうことはスラの中で確信があった。

『スラ、もしかしてオレがフォースを解放する事わかってたの?』

 レキはふと、思いついたことを聞いてみた。スラはそのことを予知していたのだろうか。
 しかしレキの予想に反し、スラは首を横に振る。

「いいえ、私の能力はそこまで優れたものではありませんからね。今回のことは全て、行き当たりばったりというやつです」

 スラはちょっとだけ、冗談ぽく笑ってみせながら言った。こう見えて、意外に向こう見ずな性格なのかもしれない。


「……まっ! でも結局、全員こうして無事なわけだしな。結果オーライってことにしようぜ〜」

 スラが思ったより元気そうなことで安心したクローレンは、いつものお気楽な口調へと戻った。




 ――こうして全てがハッピーエンド、何もかもが丸く収まった。そんな空気がその場に流れる。

 すると、まるでこの時を待ち構えていたかのように、痺れをきらした観衆が一斉に歓声をあげ、レキ達の周りにどっと集まって来た。


『……うわっ!?』

 あまりの勢いにレキは驚きの声をあげる。
 しかし観衆達の口々に叫ぶ賞賛や歓迎の声に、レキの声はあっと言う間に掻き消されてしまった。


「フォース様! あなたは本物のグランドフォース様なんですね!!」

「ジルカールをイズナルから守ってくださった!!」


 一部始終を見ていた観衆たちに口々に誉めたたえられ、フォースの顔を間近で見たいやら、フォースに触れてみたいやらの人達でレキはあっと言う間にもみくちゃにされた。



(……す、すごい騒ぎになっちゃったな。これからどうしよ……)


 レキはたくさんの人に囲まれ、ギュウギュウと押されながらも、今後のことを考えて頭をかかえた。

 イズナルはなんとか倒したため、モンスター側にグランドフォースの存在がバレる事は、まだしばらくはないかもしれない。
 しかし今回の騒ぎでクローレンをはじめ、ジルカールのほとんどの人に正体を知られてしまった。

 今まで必死に正体を隠してきたというのに、これほど大きな街の、しかもど真ん中で、ここまで盛大に正体がバレることになるとは……。


(……ニトが見てたら怒るだろうな)


 レキは、そんなことがぽつりと頭の中をよぎるのだった。



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