確かに、##NAME1##は小動物のイメージがある。教団に来た当初は本当痩せっぽちの警戒心剥き出しな草食動物……言うならばガゼルみたいなイメージがあった。しかし##NAME1##と近くなるたび、一緒にいるたび、触れるたびにもっと違う、常に何かに怯えている小動物のイメージが強くなった。剥き出しの警戒心は綱渡りのようなエクソシストの立ち位置とそれを一人で戦っている緊張。しかしそこにゆっくりと手を伸ばせば、彼女は怖ず怖ずとこの手に身を寄せてきた。(いっその事全て預けてくればいいのに。)それはまるで、自分だけに懐く小さな小さな動物のように感じられた。だから##NAME1##を動物に例えるなら、常にびくびくと何かに怯える、両手で包めるぐらいの小動物だと、そう思う。がしかし、これは何かが違うと思った。寂しがり屋の キミを抱き締めて。「ばか!このバ神田!おろせ!」「…ッ!テメェ髪引っ張んな!」肩に担いだ##NAME1##がぐん、と神田の後ろ髪を思いっきり引っ張り、その容赦のない強い引きに神田は自室へと入ると担いだ##NAME1##を投げるようにしてベッドへ落とした。##NAME1##は小さく悲鳴を上げてベッドのスプリングに跳ね、それと同時に##NAME1##の頭で何かが揺れた。細長い、柔らかい毛に被われた、ウサギの耳。「信じらんないっ、み、皆の前でいきなり担ぐなんて…!恥ずかしかったんだから!」「…………………。」手袋をつけた両手を細い足と足の間に置いてベッドにぺたりと座り、恥ずかしさに頬を赤くし上目でこちらを睨む##NAME1##に神田は目眩に近いものを感じていた。がしかしそんな格好をした##NAME1##を早くこの部屋に連れ込んで(担ぎ込んで)正解だったと一人安堵した。事の始まりは何だったか。もうそんな事は忘れてしまったのだが、気が付いた時には目の前の##NAME1##がそんな格好をしていたのだ。触れるとつい指を絡めたくなる黒髪にぴんと生えた細長い耳、柔らかい毛に被われた手袋、そして彼女の小尻にちょんもりとついた丸い尻尾(正確にはスカートの上に着いているのだがこの際何でもいい)。只でさえ注目を集める格好なのに、教団で数少ない年若い女性団員、しかもエクソシスト、しかも##NAME1##という事で彼女はたくさんの視線を浴びていた。そう、誰もが人を掻き分けて見ようとしていたのだ。この、ウサギの格好をした##NAME1##を。「…恥ずかしいのはお前の格好だ。」その一身に浴びている『視線』に神田は堪えられなくなったのだ。普段から自分以外の野郎との接触は避けて欲しいのに、接触どころかたくさんの野郎共に見られているあの状態が。最初は何か見世物を見るような笑いを含んだ視線だったのだが、ギャラリーが増えるごとに何処からか下卑たものも含まれてきて、それを感じた神田はいち早く##NAME1##を抱えてあの場から##NAME1##を退避させたのだ。本当はそんな目を向けた奴等を一人一人切り捨てていきたい所だがそれよりも早くこの##NAME1##を誰の目にも触れさせない所に閉じ込めるのが先決だと思ったのだ。そんな自分の苦労も知らず彼女はいつも通り「…神田?」とこちらを見上げるものだから神田は##NAME1##の手を引くより担いで行くことにしたのだ。(ウサギの格好をした##NAME1##は神田にとっても十分視線を留めるに値するものだった。)「何よ…自分だって同じ格好してるクセに。」「尻尾は着けてねぇ。」「同じようなものでしょ。」「…………………。」##NAME1##の言葉に神田は眉を寄せた。##NAME1##の格好うんぬん、斯く言う神田も(なぜか)##NAME1##と一緒にウサギの格好をさせられていたのだ。しかし当の本人は自分の格好よりも##NAME1##の格好にそれ所じゃなかった。(もちろん、最初は手が付けられない程全力で嫌がられたのだが)(というか…、似合いすぎ、だろ…。)神田は##NAME1##の隣に腰掛け、やっと(##NAME1##をあの中から連れ出した事に)落ち着いたように息を吐いた。そんな神田に##NAME1##はまたもや首を傾げるのだが、今日はそんな仕草にプラス、ウサギの耳がふわんと揺れた。「…………………。」「?」…そんな##NAME1##に一瞬固まってしまう神田も、いつも通りだ。「ねね、ユウ。」##NAME1##の『神田』が『ユウ』に変わるのは二人っきりになった合図のような、決まり事のようなものだった。神田はそれに「何だ」と答えると##NAME1##は少し身を乗り出して神田との距離を縮めた。「耳、触ってもいい?」「…………………あ゙?」手袋を外して諾の返事も待たずにして触る気満々な##NAME1##に神田は不快そうに目を細める。耳…なんてお前にも着いているだろうが、と言おうとすれば##NAME1##が自分の頭上の耳に手を伸ばして「自分のじゃ、上手く触れないの。」と耳先目指してぐしぐしと手を動かした。それがまるでウサギが自分の耳を掻いているように見えて………可愛かった。「………好きにしろ。」「ふふ、ありがとう。」本当に自分は彼女に甘い、と自己嫌悪に似たようなものを感じながら、神田は自分も手袋を外しフンと顔を逸らした。##NAME1##は神田の耳目指して指先を伸ばし、ベッドの上で膝立ちをするが。「っわ、」「…おい。」ベッドの柔らかさに足を(##NAME1##の場合膝だが)取られ体が斜めになった所、神田が##NAME1##の細腰を支えた。いつ触ってもびっくりする薄い体を支えれば##NAME1##が恥ずかしそうに「ありがとう」と笑った。一応二人分はあるが名目上のシングルベッドから##NAME1##が落ちなくて安堵する。それから渋々だが、##NAME1##が耳を触りやすいように(というかまたバランスを崩さないように)、##NAME1##をこちらに引き寄せ、腰を抱くようにして##NAME1##を支えた。「早く触れ。」「あ、うん!」とても不本意だが、今は二人きりで誰にも見られていないから許してやる事にする。頭上で##NAME1##が神田の耳に触れたのが何となくわかった。「柔らかーい……」気持ち良さそうな、その触感に驚いているような声がした。それは良かったな、と神田はつまらなさそうに目を細めた時、視界にあるちょんもりとしたものが目に入った。「…………………。」##NAME1##の尻尾だ。いや、##NAME1##のスカートに着けたウサギの尻尾だ。##NAME1##が神田の耳を触るたびにふるふると小さく震える尻尾。神田は二回程瞬きをした後、興味本意でその尻尾を指先でつつく。(…お、おぉ……)成程。##NAME1##が「柔らかい」と言ったのが頷ける。つついただけでもわかるその滑らかな質感。また触りたくなる柔らかなそれに神田は少しの動揺を覚えた。手袋を着けた時点で毛の触り心地がいいのは何となくわかっていたが、ウサギの尻尾というボールのような可愛らしい形に、つい掴みたくなる。思わず、きゅっ、と掴んでみると##NAME1##の体がぴくんと跳ねた。「な、なに…っ!?」「あ……悪い…」まさか尻尾を掴んでそんなに反応するとは思っていなくて、すぐに離せば##NAME1##が「び、びっくりした…」とまた耳を触るのを再開した。神田は目の前でふるっと震えた尻尾を見つめていた。…何も動揺したのは尻尾の柔らかさだけではない。その尻尾が付いてある、男子としては見つめるに際どいその場所に少なからず心臓を高鳴らせていた自分がいた。肉付きの悪い小尻を隠すようなひらひらの短いスカートに、そこから伸びる細く白い足。どれも視覚的に魅惑的で、尻尾がついて何か相乗効果がぐんと上がっている気がする。そして残念ながらそれらを目の前にして我慢できる程神田は我慢強くはなくて、支えていた##NAME1##の腰を抱き寄せた。「ゆ、ユウ…っ?」ちょうど##NAME1##の胸に頭を埋めるようにした神田に##NAME1##は耳から手を離して、神田の肩に手を置いた。気持ち神田の肩が熱いのは気のせいだろうか。神田の体を締めるようなノースリーブの私服に、手の置き場が困る。この固い肩に触れていいのやら、##NAME1##がそう怖ず怖ずと指先で神田の肩を撫でると強く体を引き離された。びくっとそこから手を離せばやけにギラギラとした目の神田がいて。「…か、神田さん………?」既に何度か見たことのあるような神田のその目に##NAME1##はまさかと顔を引き攣らせ、正気を確かめるように名前を呼んだ。が、「…お前が悪い。」ポツリ呟かれた神田の言葉に##NAME1##の耳はしなっと垂れた。「ちょ、ちょっと待ってー!!」