感謝部屋

□修学旅行
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ホテルについてさぁ夕食だ、この後どう先生と連絡とって何て文句を言ってやろうと考えていると、なんてことだろう。二校で合同夕食会だと。ふざけるな。今初めて会った他校のやつと夕食なんてできるか。私は配膳される夕食を黙々と食べながら遠くで食べている先生をガン見していた。先生は先生達が座っているテーブルで和やかに談話していて私の友達はいつ先生に話しかけようかそわそわしていた。…相変わらず人気ですこと。(あっちの学校の女子も先生しか見てないし…。)

ていうか合同夕食会とか意味あるの?親睦を深めてとかなんとか修学旅行委員が言ってたけどあきらかに私の学校の女子と先生の学校の女子で神田先生争奪戦が起きようとしてるよ。先生、女子達の視線が親睦を深めるどころか挑戦的です。先生はこの状況に気付いてるのかな?多分気付いてるんだろうな。そして絶対楽しんでるんだ。

と刺すような視線を友達に混じって先生に送ってると先生がこちらを向いた。周りの友達から「きゃあ」と黄色い声が上がる。(むしろピンクだよ。ハートが飛び交ってる。)みんなの目はハートになってるんだろうな、と思いつつ私は変わらず「ふざけんな」という目だった。そんな私の目に先生はまたニヤリと笑う。してやったり、って感じ。(あー最高に楽しそうな顔してるよ。)もちろん友達たちはしつこいばかりに先生のニヤリ顔に短い歓声を上げていた。


「やぁぁ!!先生こっち向いて笑ったよ!」


いや、だからあれはほくそ笑んでるんだって。


「今日先生機嫌よくない?」

「確かに!」


そりゃ私へのドッキリが成功してますからね!!


先生も私達と一緒で嬉しいんだよー!!と、まぁ、なんと前向き解釈お疲れ様です。みんな、先生が赴任してから先生のこと美化しすぎてない?そんな先生じゃなかったでしょ。てゆうか、みんな。やめて。あっちの学校の女子がすごい目で見てるよ!「勘違いしてんじゃねぇよ」的な目で見てますよ!あ、こら!睨み返さないっ!!親睦はどこ行った!!



各部屋のルームキーを持ってみんながエレベーターを待っている時も先生は女子に囲まれていた。息が詰まる夕食会が終われば私の学校の生徒と先生の生徒とが先生に集まる集まる。相変わらずハーレムを作るのがお上手だ。いや…、あっちが寄ってくるんだ。「先帰ってて」と無理矢理握らされたルームキーを片手に私は呆れ混じりの男子と一緒にエレベーターを待っていた。男子は「女子は本当に神田好きだよな」とか「あきねぇよな」とか言ってた。まったくだ。唯一先生のハーレムに駆け込んでいない私に男子は「いいの?」とか声をかけられたけど「別にいい」と返して男子しかいないエレベーターに乗り込む。女子はみんな先生行きだ。閉まっていくドアから先生を見つめた。楽しそうで何よりだよ先生。たくさんの女の子に囲まれて「よ か っ た ね」と口パクで伝えて視線をそらした。


がん、と閉まるドアを誰かが無理矢理止めた。



「待て。」



(は…、え、…ちょっと…。)


これ以上入りませんからって感じのエレベーターに体を滑り込ませ無理矢理乗ったのは先生だった。(え、何やってんのこの人。)後ろから女子達の先生を呼ぶ声が聞こえたけど先生は「早く閉めろ」と男子に言って男子は不満そうな目を向けてドアを閉めた。女子の声が最後まで聞こえた。女子の声に男子が先生を見上げて言う。


「先生囲まれすぎだから。」

「勝手に集まってくんだよ。」


あー言っちゃったよ。この男子の目…!先生は赴任しても先生だな。なんて顔を引き攣らせていると先生が狭い中、私の方へ移動してきた。(いやいやここめっちゃ狭いからね!先生軽く迷惑よ!)静かに動き出したエレベーターの中で先生は私をすんごい形相で見下ろして私はその形相に怖くて固まってしまった。

ちょっと。すんごい怒ってるみたいなんですけど。

お、おかしくない?おかしいよね。怒りたいの私なんだけど。何も言わないでいつもドッキリさせてさ、あんなに女の子に囲まれちゃってさ、メールだって一方的だし、ご飯食べてる時だって楽しそうにしちゃってさ、怒りたいのは私なんだけど!?

先生の睨みに私は耐え切れなくて(まじ殺られる…!)エレベーターの電光掲示へと目を逃がした。赤い電光掲示は数字をころころと変えて、5、6、7…9、あ、私ここで降りる!降ります!「降ります!」そう私が言おうとした時、ルームキーを握っている手に大きな手が絡んできた。


「!!」


誰の手…なんて思うだけ無駄で、それは、私のよく知っている大きな手だった。大きくて、女の人みたいに滑らかで、綺麗な手。私の大好きな手。

そう。先生の手だった。

先生が私の手を握ってきたせいで私は「降ります!」が言えなくなってしまって電光掲示は11になっていた。11になるとエレベーターがゆっくりになって12の数字になれば扉が開いた。扉が開けば男子達がぞろぞろと降りて、先生と私の手は離れた。同じエレベーターという箱に入っていた男子は全員降りて箱の中には私と先生だけになった。二人だけになった箱はまた扉を閉めて上へと上がっていく。

電光掲示が18と表示されてドアが開いた。18、ってうちの学校の先生が泊まる階じゃ…。ってまずいよ先生!と思ったけど先生は黙って18階の廊下を私の手を引っ張り歩く。私はもう他の先生に見つかるんじゃないかってハラハラしてたけどそれは杞憂に終わり、私達は誰にも見つかることなく無事先生の部屋に着いたのでした。(心臓ばくばくいってる…!)ばたん、と先生は扉を閉めてからベッドに座った。


「…………………………………。」


先生は黙ってこちらを睨むように見つめてきた。え、ちょっと。だからなんで先生が私を睨むのよ。睨みたいのはこっちだ!

修学旅行の場所もホテルも夕食も一緒なのに何も言わないでさ、女子にすんごい囲まれてさ、ウチの学校の女子にも先生の学校の女子にもきゃーきゃー言われちゃってさ、私が先生にいっぱい視線を送っても返すのは「してやったり顔」のほくそ笑んでる顔だしさ、夕食終わっても私に何も言わないで女子に囲まれちゃってさ、そのまま部屋にでも帰ろうとしたの?楽しかったですか。そんなに私の顔とかおもしろかったですか。


「お前、何怒ってるんだよ。」

「怒ってないよ。」

「…怒ってるだろ。」

「怒ってない。」


はぁ、と先生の溜め息とはいかないけど何かを込めた息が吐き出された。


「黙ってたこと怒ってるのか。」

「………………………………。」

「…そうなのか?」


先生は私の手をとって自分の方へと引き寄せたけど、私は首を振って目を合わせなかった。


「他に何怒ってるんだよ…。」


ぎゅ、と先生の手が私の手を握り締めた。

わかってない。先生、全然わかってないよ。私が、いつも急にしかけてくる先生に今更怒るわけないじゃん。先生のドッキリとか、いまだ騙されるけど、なれっこだもん。そりゃ、少し怒ってるけど、でも私が怒ってるのはさ…。


「先生、よかったね。」

「だから何がだよ。」


先生のイラッとした声に私は泣きそうになる。う、悔しいよ。色んな感情が、ごちゃごちゃして、泣きたいよ。私は震える下唇を噛んでから震える声で言った。


「楽しかった?いっぱい女の子に囲まれちゃってさ。両手に花どころか、溢れちゃってるね。」


あぁ、言っちゃった。可愛くない。先生の前できゃーきゃー言ってた子達みたいに自分の感情に素直になれないのかな、私は。


「…ずっと先生睨んでる私より、先生にきゃーきゃー言ってる女の子の方がいいもんね。」


ばか。私ばか。こんなこと言ったってどうにもならないのに、先生に嫌われるだけなのに。


「明日も頑張ってね。人気者は、大変、だね……。」


最後は声が消えた。涙が出てきて、涙が私の声を奪ったのだ。私はぼろぼろと零れる涙を袖で拭って、拭って、先生の前で泣いた。ひくひく体を揺らしながら、泣いた。

すると先生は静かに言った。


「言いたいことはそれだけか。」


こくん、と私は頷いた。

ごめん、ごめんね、先生。心の狭い女でごめん。子供でごめん。自分のことしか頭になくてごめん。先生が好きすぎて、ごめん。

私は袖で赤くなるんじゃないか、ってほど涙を拭ってると先生が私の腕を掴んで言った。




「……ヤキモチ、か。………ふっ」




 ……………ふっ…?

先生から漏れた、あきらかに吹き出したような笑いに私の涙はぴたりとやんだ。え、先生、今、笑った…?笑ったよね。と私は先生へと目の焦点を合わせるとそこには口端を上げてニヤニヤとこちらを見ている先生の顔。


「っ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


や、や、


「ヤキモチだなんて、なかなか可愛いことしてくれんじゃねぇか。」


やられたぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!

涙 は 完 全 に 乾 い た !!


「え、…な、…せんせ…!」


それはない!と続けようとした口だったけど、それは先生の唇によって消えた。私の下唇を吸うようにリップノイズを静かに出して先生は私に言う。


「先生、じゃねぇだろ。」


切れ長の目で私を見つめて形のよい唇で。


「ゆ、ゆう…」


先生の…、ユウの楽しそうな瞳に私が映る。泣きべそ顔の、私が。


「それならお前もお相子だろ。」

「…へ?なんで…?」

「エレベーター。男だらけだったじゃねぇか。」


それって…お相子、かな…。と私は目を遠くしたけど先生はそうだ、と勝手に頷く。


「ああやって俺の気をひこうとしたんだろう?」

「違う!そんなことしないもん!!」


顔を真っ赤にして言えば先生はやっと、普通に笑った。(いじわるじゃない方の笑顔ね!)そしてその笑顔に私は黙ってしまうのだ。所詮、惚れた弱み…と言ったところ。


「お前、明日自由行動どうするんだ?」

「えっと、いつものメンバーで。」

「じゃ、それキャンセルしろ。」


「えぇ!?」何それ!と不満の声を上げた私だけど次の先生の言葉によってそれは不満から喜びへと代わるのだった。


「俺とまわりたくないのかよ。」

「!!」


いいのだろうか!こんなことって…!!私は笑顔と驚きのが混じったような顔をして目を見開いた。(あ、でも、比率的にはやっぱ笑顔の方が多いと思う!!)


「本当!?いいの!?一緒にまわれるの!?」

「あぁ。」

「本当!?先生としての仕事は!?いいの!?」


興奮しきった私にユウはもう一度唇を重ねてきた。今度は深いふかい、とろけそうな甘いキスで、あ、も、だめ、嬉しさと興奮とユウのキスで頭がパンクしそう。

離れた唇の後、目の前にある先生の顔は先程の笑顔じゃなくて、いつものいじわるそうな顔に戻ってたけど、私はそんな顔でさえ愛してしまえる。


「何にも心配いらねぇよ。」

「ほ、本当…?」


ぞくぞくするようなこんな低い声をみんなは聞いたことがあるだろうか。

優しく頬を撫でてくれる彼の手つきをみんなは感じたことがあるだろうか。


こんなほくそ笑んでる顔、みんなは自分だけに向けられたことがあるだろうか。



「もちろんだ、」










俺を誰だと思ってんだ。



完璧神田先生!!






「ルームキー持ってきちゃったけど、みんな他の部屋に遊びに行ってるよね…?」

「大丈夫だろ。ってことで俺らも遊ぶか。」

「!!」



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