感謝部屋

□バグにキスして
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スクロールしたらスクロールした分ずらっと出てくるバグのリストに頭が一瞬どっかにイく。まじですか。バグこんなにあるんですか。やばいな、これ終わるのか…?いやいや納期は明後日だからできれば今日中に終わらしたいのだが如何でしょうか私。…ここで私が倒れて救急車騒ぎになったら、私やらなくてもいいかな。いやだめだ。何がダメだって全部ダメだ。倒れてもダメだし救急車騒ぎもダメだ。何よりそんな考えに陥ってる自分がダメだ。


(でも…このバグリスト見てたらそんな考えに行き着きますって…。)


バグリストから目をそらして肩を落とす。化粧が落ちない程度に両手で顔を覆って目を閉じればずーんとした重さがそこに広がり、目薬超欲しいとか思いつつ眼球をぐるぐる回してたら(目ん中でね)コーヒーの香ばしい香りが鼻を擽った。そしてデスクにコトンと軽い音がしてコーヒーの香りが強くなる。


「…あ、神田さん…」

「終わりそうか?」


なんて言いながらコーヒーを啜るのは斜め向かいデスクの神田さんだ。しかし今は斜め向かいではなく、私のデスク端に手をついてPCを覗き込んでいた。その手の横には神田さんのコーヒーとは別にミルクの入ったコーヒーがあり、見上げれば「飲め」と目が言っていて「ありがとう…!」と私はありがたく口をつけた。そして口をつけて気付く。事務所に誰もいない。


「あれ、皆は…」

「昼飯。」

「昼飯…えっ、お昼!?」


もう終わるけどな、と言われて壁時計を見れば時計は12時45分を指していて本当だ、もう終わっちゃう…。ご飯、食べ損ねた…。うわぁ、集中して気付かなかった(そう言えば途中「お昼いくよー」と声を掛けられて「うーん」って中途半端に返事をしたような…)。お昼食べ損ねたとわかるとお腹が空腹を訴えてくる。さっきまで何ともいってこなかったクセに、集中切れるとこうだよ。今からコンビニ行っても何かあるかな。何もなかったらどうしよう…。そう空きっ腹にコーヒーを流していると目の前に袋がぷらんと下がる。そしてそれがべちっと私に当たった。


「っちょ、」

「食っとけ。」

「え…」


手の上にぽてっと落とされたのはコンビニで売ってるドーナツで、私がよく好んで食べているやつだ。


「いいの?」

「そのために買ってきたんだよ。」


うわー!あ、ありがとう!いただきます!と私は神田さんに御礼を言って早速袋を空ける。甘い香りがそこからふわっと香り私はその香りを楽しむのをそこそこにあむっとかじりついた。優しい甘い味にバグによりぼろぼろになってた脳内が徐々に回復していく感じがした。美味しい〜と私がぱくぱく食べてる横で神田さんは私のコードを見ていく。


「…定時に終わりそうにないな。」

「定時なんてとっくに諦めたけど。」

「お前が良くてもこっちが悪いんだよ」

「?」

「手伝ってやる」


ていうかこれ何で一人でやってるんだよ、と頭裏を軽く叩かれたが私は両手を上げた。やりました!神田さんがお手伝いしてくださるなんて!天才プログラマーな神田さんにお手伝い頂けるなんて!持つべきものは心優しき同僚です。いつもはツンケンしてる神田さんですが、何だかんだとても優しいことを私は知っていますよ!本当にありがたい。「今度ご飯ご馳走してあげるね!」と言えば神田さんに「は?」て言われた。これあれですかね、お前に飯奢ってもらう程寂しくねぇよって感じですかね。財布的な意味で。…女性的な意味だったら私泣きます。一応神田さんのお家にお泊まり行くような仲なんですが実はそんな展開だったら泣きますからね。そんな意味を含めた目を神田さんに送れば、神田さんは小さく笑って「やるぞ」と書類を何枚か捲り、それを合図にお昼に出ていった皆が戻ってきた。



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