感謝部屋

□恋せよ乙女!
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私の学校の朝会とか始業式とか終業式はちょっと(ううん、かなり)最悪だ。

終業式を始めますから校長先生のお話、野球部の先生の生活指導のお話、春休みの過ごし方、終業式を終わりますまで生徒は全員立ちっぱなしだったりする。今はその校長先生の話のところなんだけど、ちなみに今の私の気分は最悪だったりする。お腹痛いし、頭痛いし、気持ち悪いし、くらくらするし、まぁあれだ。あの日、だったりする。(しかも二日目)気分は最高に悪い。しかも今やっているのは終業式。今年度の学校が終わりますよ的な式である。それは私にとってとても悲しいことだったりする。なぜなら今年度の学校が終わろうが、春休みが始まろうがそれは生徒にとって楽しい長期休暇を意味するのだろうけど、それは私にとって別れを意味するのである。誰との別れを惜しんでいるかって?そりゃあれですよ。好きな人ですよ。学校でしか会えない私の大好きな人ですよ。え、だ、誰かって…。そ、そんな言わせないでよ…、い、一回しか言わないからね。一回で聞き取ってよ、いくよ、小さい声で言うからね、ちゃんと聞き取ってよ…!えっと、わ、私の好きな人は……、






神田先生!





最悪だ。気持ち悪い。蹲りまりたい。校長先生話長すぎだよ。気持ち悪い。本当気持ち悪い。(なんか校長先生が気持ち悪いみたい)なんでよりによってずっと立ちっぱなしの終業式にこの日が重なるかな!う、うぅ、今日から先生に会えない悲しさもあるのに。この十数年生きてきて初めて長期休暇がいらないだなんて思ったよ。あぁ、気持ち悪い。


「校長もう15分も話してんだけど…。」

「だる…!」


隣に並んでる隣のクラスの女の子達がひそひそと喋っている。まったくだ。本当そう思うよ。っていうか15分もよく喋っていられますね校長先生。私はその子達のひそひそ話よりも小さく溜め息を吐きながらお腹をさすった。ちなみにさっきの溜め息の主成分の90パーセントは痛みによるものだ。ううん、だめだ。痛い痛いって思ってるから痛くなっちゃうんだ、きっと。他の、他の事に集中しよう、え、えっと…、せ、先生でもチラ見しとく?だ、だめだ。これから春休みっていうのに先生の顔みたら切なくなっちゃう。えっと…、


「あ、ねぇ、あの噂本当かな?」


隣のクラスの女の子が言った。あぁ、そうだよ。キミ達の会話でも耳を傾けようじゃないか。少しでもラクになるといいんだけど…。と私は隣の子達の会話に集中しようとした。


「なに?何の噂?」

「神田の話。」

「神田先生の?あぁ、あれね。っていうかあれ決定でしょ?」

「まじ?」

「うん。私先生に聞いたし。」

「えー…本当なんだぁ。最悪。私四月から何しに学校に行けばいいんだろうー。」

「ははっ、勉強しに来いよ。」

「まじ勘弁。」


ははは、と小さく笑う隣のクラスの女の子達。えぇっと…、せ、先生の何の噂してるのかな。気になるんですけど。ちょ、ちょっと嫌な予感とかしちゃうんですけど…、私、気持ち悪いんですけど。神田先生、先生、終業式、四月、え、い、いやだ、この子達、な、何の話しているの…、きもち、悪い、んだけど。


「神田先生って次どこの学校行くの?」

「え、なんか都内らしいよ。」

「遠っ!」


や、やめて、吐きそう…。気持ち悪い。気持ち悪い。せ、せんせい…、先生、


「先生離任かぁ、一年しかこの学校いないじゃん。」

「ねぇー。………え、ちょっと、大丈夫!?」


の声に私は自分が蹲っていることに気が付いた。(変なの。自分で蹲ったくせに気付かなかった。)

隣で話していた女の子が私に寄ってきて「大丈夫」とか心配してくれてる声が聞こえて、後ろにいる私のクラスの子達も私の名前呼んで大丈夫とか言ってくるけど、だ、だめ、やだ、気持ち悪い、せんせい、いやだ、やだやだ、


「大丈夫か」


聞こえたのは先生の声。神田先生の声。


「せん…せ…、」


顔を上げれば私の大好きな神田先生の顔があって、嬉しい、先生の中で一番に駆けつけてくれたと喜ぶ反面、さっきの話を聞いてしまったばかりに顔をそらして更に蹲った私。気持ち悪い。悲しい。気持ち悪い。先生。痛みから来るのか悲しみから来るのか、多分どっちの成分も混じった涙が出てきて先生の「大丈夫か」の言葉に私は「ん…、」と苦しげに言葉にならない声を出すしかなかった。気持ち悪い。本当、気持ちわる、


と更に蹲ろうとした瞬間、私の背中と膝裏に逞しいと感じる腕が回った。体全体が浮かんだ感じがして、女子達から小さく「きゃぁ」なんて声が上がった。うわ、私、せ、先生に、神田先生に抱っこされてる…!いつもの私なら(ウソウソウソ…!え、え、えぇぇぇぇ!?)なんて内心ヒャッホイと叫びながら顔を赤くしていただろうけど、ごめん、みんな、今の私にはそんな気力も体力も(おまけに血も)なくて、先生からのお姫様抱っこに喜ぶ余裕などなかった。ぐったりとしたまま先生の胸に頭を預けた私に女の子達からの僻みらしき声はなく、(後で聞いたけど私の顔は真っ白だったらしい)終業式が行われている静かな体育館で少しのざわめきを残しつつ私は保健室にそのまま運ばれた。





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