感謝部屋

□就学旅行二日目
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ピンクのご当地ストラップと水色のご当地ストラップを二つ手にとってみる。か、可愛いな。しかもピンクと水色、二種類あるとか…。これは、カップル狙いの商品だ…!こ、これいいよ。これ旅の思い出とかお揃いとかストラップとか!私達狙いの商品だよ!!せ、…じゃなかった。ゆ、ゆう!どうかな!?これお揃いで!!って後ろで木刀を見ていたユウを見れば、


「買うのは勝手だが俺は絶対付けないからな。」


……わ、わかってるよぉ。(先生の、ばか。)



修 学 旅 行 
 日 目




二日目の私服自由行動。私と先せ…じゃない!ユウは他の生徒が出発する時間をずらしてこっそりと出発した。小遣いの関係上高校生が絶対乗らないタクシーを乗ってたくさん電車を乗り継いで絶対皆に出くわさない所で私達は互いに私服で自由行動を満喫していた。…と言っても電車たくさん乗ったから観光地より結構外れた所だけど。だから普通のデートみたいにどっかのお店をぶらぶらしたり、公園行ったり、スタバでコーヒーを飲んでる。先生はアメリカンコーヒーで、私はキャラメルマキアート。(先生曰くドトールは煙草臭いからって理由でいつもスタバ。)


「悪いな。あんまり観光地っぽくないところで。」

「え、全然いいよ!私、先生と二人っきりなの久しぶりだからどこに行っても嬉しいっ」


と少し悪そうに先生が言ったけど私は慌てて首を振った。だ、だって本当にそうだよ。先生修学旅行近くになってから会議とか打ち合わせで全然会えなかったし、先生のお家にも行けなかったし、先生は電話とかメールとかする人じゃないからいつも連絡ないし、だ、だからすっごく嬉しいっ!て言えば先生は苦笑して私のおでこを人差し指でとん、と突いた。


「先生、じゃねぇだろ。」


そう少し首を傾ければ先生の真っ直ぐな髪がサラッて揺れて私はほっぺが熱くなった。(ふ、不意打ちだっ)「ゆ、ゆう」って言い直せばユウは優しく微笑んでくれて赤い顔を隠すために飲んだキャラメルマキアートが更に甘く感じた。


「修学旅行が終われば少し落ち着く。」

「う、うん…!」

「そしたらまた家に来い。」

「う、うん…!!」


そ、そんな事言われたら毎日行くよ!私!!せ、先生の高そうなマンションに行って、インターホン押して、正面玄関の自動ドア開けてもらって、エレベーターで先生の階に行って、先生のお家のインターホン押して、先生がインターホンで「入れ」って言って、「おじゃまします」って私が言って、ドアを開けて、靴脱いで、靴揃えて、リビングに直行、「遅ェよ」って先生が言って、いつもみたいに頭撫で撫でしてね!それから一緒にソファに座ろうね!


「はやくユウのお家行きたいな!」

「そうだな。」


幸せだ。この空間。この時間。とっても幸せ。まさか先生と修学旅行同じと思わなかったし、まさかまさか先生と自由行動できると思わなかったし、まさかまさかまさかいつものデートみたいにスタバでコーヒー飲めると思わなかった。とっても幸せ。っていうか私服この日のために買っておいて良かった。無駄にスカートとか買っておいてよかった。皆の前でスカートを着るのと、先生の前でスカートを着るのは全然違う。制服もスカートだけど、やっぱり全然違う。気合的なものが違うよね。あ、あとなんか少しは可愛く見えるんじゃないかな!スカート効果!!け、化粧も薄っすらしてきたんだけど、き、気が付くかな。気が付いてくれてるかな。ま、睫毛とかアイラインとか!なんて無駄に瞬きしてみるんだけど先生はいつも通り。コーヒーを片手にさっき本屋で買った雑誌を見ている。ま、…ま!いいけどね!こうして先生と二人きりになれただけで十分だから、べ、別にちょっと寂しいなんて思ってないし!


「…?どうした?」

「う、ううんっ(全然思ってないよ!)」


ちょっぴり色っぽく魅せようとしたグロスを塗った唇を控えめに噛んだ。い、いいじゃないか自分!こうやって修学旅行の一日を先生と共有できているだけで本当に幸せだよ。と自分に言い聞かせてると先生が目をぱちぱちさせて「あ。」と声を上げた。え、?な、何?と振り返ればお店外のガラスから知らない女の子二人がこちらに向かって手を振っていた。(いや、正しくは先生に向かって、だな。)先生はチッ、と舌打ちをした。知らない女の子達は何を思ったのかキャーキャー言いながらお店に入ってきた。え、まじで何を思ったし。って、っていうかこっち来る!て、ていうか化粧濃っ!!目の回り黒…!!パンダか!


「先生じゃぁ〜ん。私服めっちゃかっこいいし!」

「何してんのぉ?」

「こんな所で会うとかウケんだけど!何スタバって。」


いや、全然ウケないし。スタバ悪いかよ!っていうか先生の学校の生徒かよ!スカート超短いっ!!


「先生、この子誰?」


誰コイツ。って小さな声だけど確実に私に聞こえるように爪が長すぎの女の子が言った。わ、私からすれば貴方達の方が誰コイツだよっ。せ、せっかくの二人の時間だったのに…。皆と時間ずらしたのに。タクシー乗ったのに。たくさん電車乗り継いできたのに。なんでこうなるの。


「ホテル一緒の学校の生徒。元生徒。」


机に肘をついてそれに顎を乗っけて先生は雑誌をめくった。女の子達は「ふ〜ん」って言って私を見定めるかのようにその作り物っていうか加工物みたいな目で見てきた。声があきらかに邪魔、消えろって言ってる。


「なんで一緒にいんの?」


の質問に私はどきっとした。ま、まずい。先生と私の関係は、秘密だ。まずいよ先生、とまた雑誌をめくった先生を見れば、先生はそんな私を見てフッと笑った。え、ここ笑うとこですか。


「グループから外れて迷子になって泣きべそかいてる所拾った。」

「っな…!!」


何を言うかこの人はっ。と小さく声を上げたけど先生は目で「だまってろ」って言った。…う、……なんか納得いかないが…。今は先生の言う通りにしといた方がいいのかな。(わ、私そんな方向音痴キャラじゃないんだけど…。それに、はぐれても泣かないもん。)


「迷子とかどんだけ。可愛いんだけどっ」


いやいやいや確実に可愛いだなんて1ミリも思ってないっしょ。目が痛いんだって。射殺さんばかりに痛いんだって。怖いよ。先生の学校の生徒さん怖いよ。ギャルだよギャル。


「先生うちらも一緒していい?」


いやいやいやいや何言ってんだよ。貴方達。一緒していい?て言った時点でもう座ってるし!先生の隣キープだし!し、知らない子隣に座るし!先生ー!怖いー!!怖いよー!!


「っていうか先生かっこよすっぎしょ。私服。」

「あとで写真撮ろぉー?」

「断る。写真は嫌いだ。」

「えー球技大会の時は入ってくれたじゃーん。」

「あれは無理矢理お前達が入れたんだろ。」

「いーじゃんあれくらい。っていうか球技大会時の先生かっこよかったぁ。」

「やばかったよね。先生剣道以外にも運動できたんだって思った。」

「っていうか先生、生徒相手にマジなんだもん。容赦ないよね。」

「当たり前だろ。勝てるもんは勝つ。」

「ウケるっ、本当やりすぎだから!」

「っていうかこの前の体育も…」

「……………………………。」


あの子達、わざとやってる…。わざと私が知らない話してる。わざと私が知らない先生の話してる。(チラチラこっち見ながら話しないでよ。)サイアクだ。さっきまでこの子達が場違いだったのに、今度は私が場違いみたいになってる。何球技大会って。何その時の先生って。私、知らないよ。私の知らない先生を話さないで。見せびらかさないでよ。私の先生取らないで。やめてよ。先生も、この子達と会話、しないで…。せっかくの二人きりの時間を潰された。私の頭と心は一気にどす黒くなっていくのがわかる。ぐちゃぐちゃで、きっと見せられない色してる。なんか、惨め……、


「っ」


こつん、


机の下で私の爪先が先生の足にあたった。あ、ご、ごめん先生。と爪先を引っ込める。そしたらまた、


こつん、


私のパンプスに先生の足があたる。あ、あれ?先生…。と先生を見れば先生は雑誌から少し顔を上げて私を見た。一瞬私を見ればまた視線は雑誌に戻るのだけど、口元は微かに笑ってる。こつん、また先生の足が私のパンプスを突く。


(…あ…、)


なんだか先生の気を引こうと一生懸命に話す女の子達を無視して私は机の下、先生の足を突いた。すると、今度は先生の足が私の足を二回突いた。わ、な、なんか知らないけど、私、ちょっと嬉しいかも。つん、とまた突けばつん、って返ってくる先生の足。(わわわ、せ、先生…。)女の子達は相変わらず先生に話しかけている。まだ自分の学校での思い出を話しているようだけど、私の耳にはもうそんな事、聞こえなかった。机の下で、先生の片足と私の片足が寄り添うようにくっ付いた。先生は女の子達の話に適当に相槌を打って雑誌をめくり、私は先生のめくる雑誌を見ていた。机の下で、私達は私達の時間を、楽しんだ。(あれ、胸のぐちゃぐちゃが消えてる。)


なんだかんだ女の子達は30分程居座って喋り続けた。私と先生の足は机の下でたまに遊ぶようにじゃれる様に足を絡めたり、突いたり、くっ付けたりしてたけど、途中先生は我慢しきれないように思いっきり不機嫌オーラを出した。そ、そんな思いっきりいいのか…。と思ったけどその結果女の子達が空気を読んで帰ったから、いいのかな。先生の不機嫌オーラに逃げるように去った女の子達を見送った後、私達は顔を見合わせてくすくす笑ったのは内緒だ。


「悪いな。せっかくの時間。気を取り直してどこか行くか?」


と腕時計を見て先生は言ったけど私は首を振った。


「ううん、もうホテルに帰ろうよ。早く帰らないと皆の帰宅ラッシュと被っちゃうし。」

「…そうか。」


スタバを出た私達は一応警戒して手は繋がなかったけど、なんだかそれでもいいような気がした。心が繋がってる?だなんてちょっとかっこ悪いセリフだけど、でも確かにそう思ったの。「先生、帰ろう?」て言えば先生は「そうだな」って私の頭を撫でてくれた。(やっぱ撫でられるの、好きだ)それから先生は「ちょっと待て」とポッケに手を突っ込んだ。


「先生?」


首を傾げた私に先生は少し勝ち誇ったような顔で小さな紙袋を出した。


「ほらよ。」


と受け取って「何?これ…」と言えば先生は私の前に自分の携帯を出した。あ、あれ…?先生のシンプルな携帯にストラップが一本ぶら下がって…る…。(水色の、ご当地、)ま、まさかと私は紙袋を開けた。(ええいっ、シールよ!早くはがれろっ)出てきたのは…、


「す、すとらっぷ…だ…!」


先生と同じデザイン、ピンク色の、さっき私が手に取った奴だ…!!「お揃いだな」なんてかっこよく笑う先生に私はくらくらした。


「え、な、ちょっ、せ、先生これ、いつの間に…?」

「…阿呆、」


の言葉と一緒に落ちてきたキスに私の頭は完全にショートした。(いい意味で)










俺を誰だと思ってんだ。



準備万端神田先生!!





(可愛いお前のためなら、これぐらい、我慢してやるよ。)

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