Love song

□Conductor
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抜けるような空を仰いで息をつく。

今日はいい天気で、だから当然のように出歩く人も多い。
少年は好奇の目を向けられるのは慣れていたが、慣れを痛感してしまうのは嫌だった。

なるべく急ぎ足で歩いて、めったに人のこない公園を通り抜ける。
かつて、時々ここで遊ぶ同じ年頃の子供達を見ては、その輪の中に加わりたいと胸が痛むほど願っていた少年は自然と目を細める。
そんなことはもう叶わないと彼は知っていた。

――少しでも早く、誰もこないうちにこの場所を抜けてしまわなければ。
自分が一人ぼっちだと思い知ってしまう前に。


そう広くはない公園の片隅に家から持ってきた鞄を隠す。
中には母親の作ってくれた弁当があったが、少年はそれに触れようとして一瞬だけためらった。
学校に行くつもりはなく、とりあえず家を出たくてたどり着いたのがここだ。
だからひとまずここから更に遠くへ行きたくて、だけどこんな物を持って歩いていればさすがに何か言われるに違いない。

とりあえず中身を見ると簡単なサンドイッチで、そのことに少し安堵した。
少年は母親を嫌っているわけではなかった。さすがに食べないまま帰るのは気がひける。
包みでそれをくるんで、なるべく潰れないように気をつかいながらパーカーのポケットへ入れる。

手荷物がなくなっただけで不思議な解放感に包まれて、少年はようやくその日初めての笑みを浮かべた。

「さあ、どこへ行こうかな」

歩き出す少年の横をからかうように一匹の蝶が通り過ぎた。

公園の遊具の間を楽しそうに舞うその姿をしばらく眺めて、少年はそこから慌てて走りだした。


行くあてがないことなど、少年にとってはどうでもよかった。
なぜかそこから逃げ出さなければならない衝動が彼を突き動かしていた。
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