眠り姫は籠の中
□KilL
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ああ嫌だわ。
パーティーに出るのは久々だからと上等のシルクドレスにおろしたての革靴を選んだのに、もうボロボロ。
「貴方が慎重に歩かないからよ」
「すみません」
苛々と八つ当たりでこぼす言葉にこの紳士は反論しない。
いつでもこうなのだから呆れる。
「…少しは自主性というものを持ったら?そんなにへつらってばかりでは、私はそのうち飽きてよ」
「淑女をお慕いしお守りするのは紳士の努めです。それに貴女はそう言いながらもお側に置いて下さいますし」
その言葉に、聞こえないように小さくため息をついた。
「それからリデル。歩くというのは表現として間違っています」
「あぁそうだったわね」
そんな事はどうでもいい。
この幽霊紳士は思い通りになる時とならない時があって、今はまさに後者だった。
――どうしたら私の言う事に逆らうのだろうか。
私と共に行動するこの男を邪魔だと思ってはいない。
むしろこんな状況で合流できた事を神に感謝したいほどだった。
…その神ももう感謝を捧げる対象ではなくなっているにしても。