CuT
□piece
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「あぁ、やっと…やっと苦しさから解放される。
…なぁ影、お前も嬉しいよな」
後ろで見守る影に呼びかける。
気のせいか、ずいぶんと薄い色になった影は頼りなく揺れた。
『…主ガそれで、幸せだと、ぉ…っしゃるノなら』
影の言葉にノイズが入る。
片言になったのも、いつからだっただろうか?
「ありがとう。それじゃ」
息を継ぎ、言葉を口にしようとして。
できなかった。
『主…あ、……?』
「………」
もう何も分からない。
自分が誰でどこから来たか。
俺の記憶を創っていたカケラはバラバラ音をたてて散っていく、
俺の体も。
ねぇ。
忘れる事すらも、罪だったの?
ねぇ。
幸せを望むのが、そんなにいけないコトだった?
この世界を構築してきた全て、だった神が消え。
その傍らに居続けた影すらも消えた。
そしてそこには、二度と世界の生まれない真っ白で真っ暗な、
清浄と混沌だけが。
(神様とその影のなれの果て、もう蘇る事はないでしょう。
もう苦しむ事も喜ぶ事もないでしょう)
09.6.23