CuT
□トビラ
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それでもなんとか覚悟を決めて拳を固く握りしめて、前を見据えた。
歩く地面がゴムのように感じる程に足取りはふらつくが、とにかく歩く。
ユーリは見せ物じゃないのに、人はどんどん増えていく。
俺が近付くと慌てたように散っていったが。
遠巻きに眺める奴らを後ろに、ユーリの側に立ち、しゃがみこむ。
「ねぇユーリ…起きて?俺、遅刻したけどちゃんと来たよ」
呼びかけるけど、当然のように応答はない。
小さい体を折り曲げて、ますます小さく見えるユーリに手を伸ばして触れた。
冷たさしか、そこにはなかった。
ユーリの白い肌を際だたせるみたいに、地面に広がる鮮やかな赤い血が目に入る。
もう駄目なのか。
そう思った瞬間、ユーリの体がほんのわずか動いた。
「ユーリ…!ぁ、」
嬉しさに見開いた目が、すぐさま力をなくすのが自分でも分かった。
ユーリの腕の中から、子猫が顔を出す。
…そうか。
こんな小さな命の為に、ユーリは死んだのか。
最期まで、儚くて優しいその行動に涙が溢れそうになった。
葬儀には参加しなかった。
ユーリのいない場所で泣きたかったから。
傍らには変わらず側にいてくれる影と、
それからユーリの形見のような子猫がいる。
もう、この広い空の下をいくら覗いてもユーリはいない。
そんな当たり前の事が、重くのしかかる。