Love song

□Variation
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黒に会おうとして足を踏み出し、どこに行けばいいか分からなくてそのまま動けなくなる。
情けないことに俺は俺の世界以外を知らなかった。

「どうしよう…」

途方に暮れて、名前を呼べばきてくれるだろうかと思いつく。

「黒…?」

一瞬の間があいて黒い見慣れた姿がそこに現れた。

「ああ、よかった。黒、あのな、俺…」

言いかけた言葉を飲み込む。
黒の服に染みこむほどの返り血がついていると、匂いで分かった。
途端に忌まわしい記憶がいくつも掘り起こされて思わず口を押さえる。

「ぅ…っ、はぁ…、く、ろ…お前、それ、どうして、」
「どうして?」

ぱたぱた、と音をたてて黒の服から滴り落ちる血が雫になって空間の中へ落ちていく。
血の雨のようなそれは地に落ちることなくいくつもいくつも降り注いだ。

「…どうして、か。そうだな、」

黒はかつて俺の母親がよく浮かべていたような微笑みで俺を見た。

「お前の大好きな世界を直接壊してみれば少しは事態が好転するかと思ったのかもな」
「…は?だってお前、今までずっと」
「そう。ずっとお前の世界に興味はなかったし、お前がお前の世界をどうしようが勝手だと思っていたさ。けどな」

忌々しそうに黒が袖を両手で絞るようにひねる。同時に今までとはくらべものにならないくらいの大量の血がこぼれていった。

「お前がもう取り返しのつかないところまで壊れたなら俺がケジメをつけてやらなきゃならないだろう」



息が詰まるかと思った。

まるで、あの日を繰り返しているようだった。でも違うのは対峙した相手と、少しは変わったはずのこの俺だ。

「…黒。俺はそんなこと望んじゃいない」

あの日と同じにはさせやしない。
もう、一人になるのも、一人にさせるのも嫌だ。

「じゃあお前は俺をどうするんだ?…殺すか?」

どこか諦めたような自嘲気味な笑顔で黒が言う。挑発にも似た響きだが、たぶん黒は言葉通りにしてほしいなんて願っていないだろう。


正直、どうしたらいいかなんて分からない。
でも黒を責めることはできない。
こんなことになったのは俺にも原因がある。

「そんな顔するなよ。俺はそうやって相手のことばっかり考えてるてめえが一番嫌いなんだ」

そんなこと言われたって。じゃあ、どうすればいいんだ。

「黒…俺は、もう大丈夫なんだ」

やっとそれだけを口にして、血の赤色に身を震わせる。
怖い。怖くてたまらない。
けどあれは俺のしてきたことなんだ。
母さんと同じように、気付かず築いた罪なんだ。
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