短編小説

□*Rainy day*
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「僕といると退屈なのか?」
「えっ、なんで?」
「さっきから、ため息をついてばかりいるから」
「そんなことはないよ」

(むしろ幸せだよ)と言葉を続けようとしたが、──やめた。
恋人はそんな甘ったるい言葉が、大嫌いだったからだ。

「確かに雨振りだと、気分がうっとおしいからな」
窓の外を見て、ポツリと彼が言った。

その言葉を聞いた途端、言い知れない不安で胸がいっぱいになり、思わず相手の傍に近寄ってしまう。

「ごめん、ドラコ。ごめんなさい!」
「──えっ?」
振り返る彼のグレーの瞳が、驚いたように見開かれる。

僕はぎゅっと目を閉じて、何度も謝りの言葉を繰り返した。
「うっとおしくて、ごめん。悪戯ばかりして、ごめん。追っかけまわして、ごめん。お節介で、ごめん。みんな、みんな、ごめんなさい……」
言っているそばから悲しくなってきて、涙がにじんできた。

「なにを突然に……」
ドラコのうろたえた声がする。

「最初に列車の中で出会ったときに、君の手を取らなくて、ごめん。傷ついた君の心をずっと気づかずにいて、ごめん。ひとりにして、ごめん。──そして、君のことを大好きすぎて、ごめんなさい!」
言っている側から、不安が頭をもたげてきて、ボロボロと涙がこぼれてきて、止めようとしても、どうすることもできなかった。

「ハリー?」
ドラコが慌てたように、泣いている僕の手をとった。

「今日が雨で、ごめん。もっとキスしたくてたまらないのを我慢してて、ごめん。君のことが世界で一番大好きだと言いながら、本当はクィディッチのことも、君と同じぐらいに大好きで、ごめん。君がなくしたと思っていたお気に入りの羽ペン、僕が持っていて、ごめん。みんなみんな、ごめんなさい!」

「……ハリー、言っていることが、みんなバラバラだぞ」
「だから、ごめんって、謝っているじゃないか──」
涙で顔がぐしゃぐしゃになる。
ドラコはそんな僕の顔を見て笑った。
「今、本当にお前はとてもひどい顔してるぞ」

「不細工で、ごめんね。ドラコはこんなに綺麗なのに……。僕の髪型がどうしようもなくて、ごめん。近眼でごめん。実はナイショで身長が伸びるように、通信販売で怪しいクスリを買って、毎日飲んでいるのに、ちっとも身長が伸びなくて、ごめん。本当は犬のほうが好きなのに、君が猫が好きだって言うから、僕も好きだと、嘘ついてごめんなさい!」

いつの間にか、僕の謝って言葉が横滑りをして、情けない懺悔をしていることに気付いて、ドラコの肩がかすかに笑いで震えていることに、僕は気づかない。

「君の言うことは、いちいち大げさすぎる。まるで次の瞬間、この世界が破滅しそうなほどの勢いで、謝ったりして。──ハリー、君は伝説の魔法使いなんだろ?」
ドラコが僕の肩に手をかけて、語りかけてくる。

「しかも、ちびっ子のヒーローだ。みんな、君のことを憧れているぞ。おまけに、グリフィンドールの歴代の名シーカーだ。──少しは自信を持てよ!」
「自信なんかないよ!ドラコがどこかへ行ったら。僕を捨てたら……、ううーっ」
たまらず号泣して、ドラコにすがりついた。

ドラコは僕の重さが受け止められずに、ふたりしてボスンとベッドにひっくり返ってしまう。
天井を見上げたまま、ドラコは「まったく!」とため息をついた。

「ハリー……、君は謝ってぱかりだな。いつでも、切羽詰まったら、『ごめん、ごめん』としか言わなくなる。ボキャブラリーが少なすぎるぞ。君から最初の告白を受けたときも、「ごめんなさい!」で結局、最後まで押し切られたし……。何がなんだか……」

「ごめん。もう謝らないから、ごめんなさい!」
「また、謝っているし……」
呆れた声を出しているけど、相手は別に怒ってはいないみたいだ。


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