シリーズ小説

□【ふたりは〜シリーズ】
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「ハリー、早く教えろ!」

イライラとしたドラコの声に、はっと我に返って、慌てて釣竿に視線を落とす。


わざとらしい咳払いをしつつ、質問をした。

「えっと……、ドラコは右利き?」

「そうだ」

「じゃあ、右手の中指と薬指小指の間に、このリールを挟むように握って、左手で竿尻を持ってみて」

ドラコの手をつかんで動かして、竿の握り方を教える。


ドラコの指は細くて白く、とても繊細な指先だった。

手を添えると、しっとりとしてすべすべで、まるでシルクを触っている感触がする。



またじんわりとした幸福感がハリーを包んだ。


「こうか?」

ドラコが振り向き尋ねる声に、夢から覚めたように瞬きをして、ハリーは頷いた。

(何考えているんだろ、僕は?)

ハリーは顔を赤らめながら首を振って気分を入れ替えると、釣りの方法を教えることに神経を集中させる。



「やっぱりドラコは初心者だし、キャステングはオーバースローがいいかな?」
とぶつぶつ呟いて、ドラコの腕をつかんで、上へと持ち上げた。


「何?キャスティングとかオーバーなんとかって?」

「ああ、竿の投げ方だよ。じゃあ、自分の耳元で腕を折って、……そう、竿はその向きで、視線はあのあたりを見て、それから―――」

ハリーはドラコの肩や腰や足にふれて、からだの向きを手で細かく丁寧に直すと、やがてその構えに納得がいったようにうなずき、彼から離れた。


「よし、これでいい!!さぁ、投げよう、ドラコ!」

「ああ」

「右手で振るんじゃなくて、左腕の引きつけで竿を振るのが飛距離アップのコツだから」

「分かった!分かったからっ!」
じれて、うずうずしているドラコの声が面白かった。


「右足に体重を乗せて、剣を振る様に、竿を振りながら左足に重心を移して振り下ろして。で竿を最後まで振り切らずに、途中で止めるのが竿の反発を利用して投げるんだ、いいね」


「イチ、ニ、の―――サン!!」


ドラコの竿がしなり、リールがカラカラ音を立てて糸が勢いよく伸びていく。

思ったより飛距離を稼いで、湖の途中にポチャンと針が落ちた。



「ハリー、今のはどう?僕の投げは、どうかな?」

「いいよ!最初にしては、とてもいい出来だっ!」

ハリーが大きく頷くと、ドラコはそれを受けて嬉しそうに笑った。


本当にドラコの笑顔は心に染み入るほど素敵だった。

白い歯並びも、色の薄いプラチナブロンドも、笑うと下がる目尻もよかった。


「それで、これからどうするんだ?」

「あとは座って待つだけ」

「えーっ、それだけなのか?」

「ああ、時々竿を振って、糸を動かしてね。それでアタリを誘うから」

「ふーん……」
微妙な顔で、ドラコはうなずく。



「なに?もっと違うことを想像してたの、ドラコは?」

「ああ。なんていうのか、釣り糸をたらすとすぐ魚が釣れるもんだとばかり思っていた」

「そんなに簡単に物事は進まないよ」
ハリーは苦笑した。


「そこに竿をつかんだまま座って、アタリを待てばいいよ」

「……うん」
素直にドラコは草の上に座る。


ハリーはそんなドラコの姿を横目で見ながら、自分の竿の仕掛けに取り掛かった。

ドラコにいいところを見せたいので、ハリーは大物狙いでいくらしい。

俄然張り切って、仕込みを始めてリールをセットして糸を結んでいると、隣でドラコが大声を出して、ハリーを呼ぶ。



「ハ……、ハリー!きている!アタリが来ているんじゃないのか?」

「―――えっ?そんな早くにアタリが来るかな?」

胡散臭そうにド素人のドラコの声に顔を上げると、立ち上がって必死で握っている彼の竿は、確かに強くしなっていた。



ハリーも慌てて立ち上がり、ドラコの横に立つといっしょに竿を握る。

「いい、まだ引いちゃダメだからね。まず合わせといって、糸をゆるませて……」

強い引きのある竿を下げて、張っている糸をわざと緩める。

そうするとかかっている魚が少しだけ自由になった体で水面深く潜ろうとする。



「さぁ、今だよ。一気に上に引いて」

グンと引っ張ると、不安定なぶれたような振動から、ダイレクトな強い引きに切り替わったのが、竿に伝わってきた。

魚がグイグイ引っ張って逃れようとするのが、手に取るように分かる。



「―――そう!それでいい。これで釣り針が魚の口にしっかりかかったから」

ドラコは目をいっぱいに開いて頷く。

「で、リールをゆっくり巻いていって……。そうそう……。出来るだけ一定のスピードで巻くことが大事なんだ。」

ドラコの竿がしなるたびに、水面が波立ってきた。


黒い影が二人の近くまで引き寄せられてくる。

思ったよりそれは大きくて、竿の引きが強い。



「いい、僕が合図をしたら力いっぱい後ろに竿を引いて。僕もいっしょに手伝うから」

「こんなにしなっているから、折れて逃げないかな?」

「大丈夫!―――じゃあ行くよ!」

「―――せーのっ!」

かけ声とともに勢いよく引っ張りすぎて、勢いがつきすぎたふたりは、釣竿もろとも思い切り後ろにひっくり返り、ドシンと尻餅をつく。


「いてぇーっ!」
思わずハリーは悲鳴を上げた。

痛さに顔をしかめていると、ハリーのからだの上でひっくり返ったままのドラコが叫ぶ。



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