シリーズ小説
□【ふたりは〜シリーズ】
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怒りで真っ赤な顔のままの、ドラコの動きが止まる。
「……ともだち?」
初めてその言葉を聞いたように、ドラコは不思議そうな顔をした。
「……キミと僕が、ともだちに?」
意味が分からないという顔で、再びドラコは尋ねてくる。
「うん、そう。僕はキミと友達になってみたい………ような気がする……のかな。あれ?」
ハリーもドラコと負けず劣らずの、不思議そうな顔をした。
自分は今何を言ったのか、理解していないみたいに、首を傾げる。
「………もしかして今、僕はキミに、何か変なことを言ったのかな?」
「―――言った」
こくんと素直にドラコはうなずく。
「とてもおかしなことを言ったぞ。……キミは僕と『ともだち』になりたいと言ったんだ」
「へぇー……、そうなんだ……」
ハリーも自分が言った言葉なのに、狐につままれたような変な顔をしている。
ふたりとも、なにかつかみどころが無い、ぼんやりした顔でお互いを覗き込んでいた。
「………あー。じゃあ、とりあえずさ……」
ハリーは心の中の何かに押されるように、言葉を続けた。
「―――とりあえず、僕が口にした言葉は嘘じゃないと思うんだ。きっと僕は、キミと友達になりたいんだ。―――多分ね………」
曖昧なハリーの問いかけに、ドラコはその言葉の真意を確かめるように、改めてじっと相手を見つめる。
ドラコはとても臆病で慎重な性格だった。
ドラコがあまりにも長いあいだ瞬きもせず、大きな瞳で自分を見つめてくる仕草が子どもっぽくて、ハリーの口元に軽い笑みが浮かぶ。
ドラコはとても驚いたような顔をして、息を呑んだ。
まさかハリーが自分に向かって笑いかけてくるなど、全く予想もしていなかったからだ。
ハリーの澄んだグリーンアイズは明るく光を弾き、四方に跳ねた髪型はやんちゃで、落ち着きのなさを如実にあらわしているようだ。
細身の体はクィディッチの練習の賜物なのか機敏で、動きに無駄がなく軽やかだ。
父親譲りの人懐っこさと、いたずらが好きそうな笑顔。
そして額には、あのイナズマ!
あの伝説のしるしが刻まれていた。
わけも分からず、ドラコは相手の雰囲気に流されるように、コクリと頷く。
「……キミがそう言うなら、僕は別にいいけど……」
ドラコは自分が何故頷いたのかすら、分かっていないような顔だ。
途端にハリーはパッと顔を輝かせて、ドラコの手を取った。
「じゃあ決まりだねっ!僕たちは今からともだちだっ!」
「ああ」
ハリーの笑顔につられて、初めてドラコもハリーにおずおずと笑顔を返した。
鼻に付く、生まれ持った血統のよさを誇るような高慢な態度のドラコが、ゆっくりと笑ったのだ。
多分、一部の心の許した相手にしか見せないであろう表情で、ハリーに笑いかけてきた。
彼のきつい威嚇するような瞳がゆるみ、目尻が下がって、こぼれた笑顔のきれいなことと言ったら輝くばかりで、ハリーは完全に舞い上がってしまった。
『ともだち』
その言葉はなんて素敵な響きを持つのだろう。
ふたりはいつまでもその場所に留まり互いを見ては、バカみたいに笑いあっていた。
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