シリーズ小説
□【ふたりは〜シリーズ】
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3.
犬猿の仲だった彼らが、こうしていっしょに過ごすようになったきっかけは、ロンとハーマイオニーがカップルになったことだった。
当然3人の均衡は崩れて、ハリーはポツンと蚊帳の外に追い出されてしまうことが多くなった。
あのふたりがうまくいくことはハリーにとってもとても喜ばしいことだし、これによって3人の友情にひびが入ることなどないことぐらい分かっている。
ただ頭では分かっていたけれど、ひとりでいる時間が増えるのは、いつも3人で入学してからずっと過ごしてきたハリーには、かなり堪えてしまった。
ひとりでいることが、思うよりずっと辛いのは事実だ。
彼はこの学園に入るまで、いつもひとりぽっちで過ごしていたから、またあの孤独な誰からも相手にされない惨めな自分に戻ってしまわないかと、ひどく不安で仕方がなかった。
薄暗い部屋。
そこは凍えるほど寒くて、ほこりっぽくて、狭くてかび臭い匂いがした。
おなかを空かせて、歪んだ眼鏡をかけて、やせっぽちの自分がいつもひざを抱えて座り込んでいる。
どんなに泣いても誰も慰めてはくれなかった。そこには救いなど、どこにも無かった。
『孤独』はハリーにとって、今では不安よりも、恐怖に近いものになっている。
だから東側の廊下でいつもようにドラコが喧嘩を吹っかけてきたとき、つい反論せずにまともにそれの受け答えを返した。
「おやおや今日は一人なのかい、英雄殿は?」
けんか腰の意地の悪い顔だ。
「そうだよ、ひとりだよ」
「へぇー、ひとりだと寂しいんじゃないのかい?いつも君たちは3人でバカみたいに、くっついて行動してたから」
「ああ、寂しいよ」
怒りもせず、無視するわけでもなく、素直な答えが返ってきた。
いつもの反応と違う相手に、ドラコは少し戸惑った顔になる。
「思っていたよりひとりって堪えるね」
ハリーは重くため息をついた。
「―――?」
ドラコはいぶしかげに、じっとハリーを見つめる。
「――そういえば君も今日は一人だね。というか、いつもキミは一人でいるよね。……ああもちろん、キミの言うことをきく手下はいるけど、それ以外に君といっしょにいる相手なんか、一度も見たことがない」
図星だったのか、ドラコの顔がさあーっと真っ赤になり、ハリーを容赦なく怒鳴りつけた。
「うるさい、余計なことを言うなっ!!」
彼がかんしゃく玉のように怒鳴り散らし、罵詈雑言を矢継ぎ早に浴びせてくる。
ドラコは怒りで、ほとんど涙ぐみそうになっていた。
ドラコの薄灰色の瞳は、逸らされることなく、じっとハリーだけをにらみつけている。
手を振り回して、彼にしたらオーバーアクションで、叫びまわっている姿はひどく滑稽だ。
だけどそんな自分の醜態など構うことなく、必死にハリーに食ってかかる。
ドラコは名門貴族の子弟で、上品ぶって相手を冷ややかに冷静に見下しているのに、ハリーだけにはいつも過剰反応した。
(そういえばマルフォイは、僕だけに絡んでくるよな。それは僕だけを見ているってこと?)
(いつも、ずっと、僕のことを―――?)
『孤独』は何よりも怖かった。
ハリーはじっと怒り続けているドラコの顔を見つめ返す。
(……ああもしかして、僕はひとりじゃないかもしれない……)
無意識のうちにハリーは、自分でも思ってもいないことをつぶやいていた。
「キミもひとりだし、僕もひとりだ。―――僕たち、友達になれないかな?」
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