シリーズ小説
□【ふたりは〜シリーズ】
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2.
肩を並べてふたりは歩いていた。
ドラコが「遠いぞ!」と愚痴を言いつつ、ハリーは上機嫌で弁当の包みを振り回したりして、やっと目的の湖畔にたどり着く。
結構長い距離を歩いてきてしまった。
きっと帰りが大変だろう。
だけど、今の彼らにはそれは苦痛ではないのかもしれない。
こうしていっしょにいる時間が、とても楽しかったからだ。
水辺の木蔭の涼しい場所に腰を落ち着けると、持ってきた包みを開き、ハリーのせいで見事に偏ってしまった、見栄えの悪い昼食を、ふたりして仲良く食べ始める。
どうもハリーはミートパイが大好物らしい。
自分が何個も頬張りながら、ドラコにも何度も勧める始末だ。
ドラコは肩をすくめて、「遠慮するよ」と答えた。
彼は甘いものは甘いものとして食べるのが好きだったからだ。
なにもあの甘いパイに、しょっぱい肉の詰め物なんか入れたものは食べたくはなかった。
ハリーは笑いながら
「好き嫌いするなんて、子どもっぽいな、ドラコは」
とからかう。
ドラコも負けじと
「キミほど、食事のマナーが悪いヤツなんか見たことが無いぞ。僕が徹底的に、貴族のマナーを教えてやろう」
と宣言して、とりあえず骨付き肉を手掴みで持っているハリーの右手を、容赦なくパシリとたたいた。
「いてーっ!……ああ、もう。貴族のマナーなんて必要ないからっ!」
ハリーは抗議の声を上げた。
「なぜだ?いろいろこれから役に立つぞ?」
「そんなものを身につけたら、僕の魅力が半減するじゃないか!」
「なんだそりゃ?」
「僕はこーいうところがいいんだよ。有名人にも、貴族にも、選ばれた人にも、僕はなりたくないっ!」
ハリーらしい宣言に、ドラコはフンと鼻を鳴らす。
「じゃあ生まれ持っての大貴族の子弟の僕はどうするんだよ?」
「まぁ……、それはキミの運命だ。諦めろ!」
「自分はよくて、僕は諦めろか、ハリー?ひどすぎるぞっ!」
「……じゃあまず、ここは戸外なんだから、ピクニックといっしょだよ。そんなナイフとフォークなんか持たずに、手づかみで食べてみたら?」
「えー……。手が汚れるし……」
「ああ、本当にキミはお坊ちゃんだね!」
意地悪くハリーは笑う。
ドラコはむっとしながらも、いつもの負けん気の強さが頭をもたげてきて、『ええい、くそっ!』という感じで、塩コショウにまみれた鳥足を掴んだ。
「……うぇー……。ハリー。やっぱり気持ち悪いじゃないか」
途端にドラコはひどく顔をしかめて、油でべたべたになった指先の感触に、嫌な顔をする。
ハリーは神妙な顔をして、うなずいた。
「そこだ、ドラコ!負けずに手づかみのまま食べてみて。ひるまずにっ!」
彼の変な応援を受けて、しぶしぶそれにかぶりついた。
歯の噛む力加減で鶏肉がポロリと骨から外れて、とても食べやすいことに、ドラコは目を見張る。
「なんだか、こっちのほうが食べやすいぞっ!」
目を丸くするドラコにハリーは
「うんうん」とうなづいた。
「マナー違反なんて、実はおいしくて楽しいだろ?」
「ああ、結構イケルよ!」
ドラコは笑った。
いつもハリーといると新しい発見や気づくことが多くて、ドラコは楽しくてしようがなかった。
今では彼といる時間を共有することは、とても嬉しいことのひとつになっている。
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