シリーズ小説
□【ふたりは〜シリーズ】
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「ハリー、キミは誰かとキスしたことがある?」
その質問の意味は、誘惑にしか聞こえなくて、ハリーから理性を奪っていこうとする。
「ないよ。誰ともしたことがない」
「―――実は僕もさ。だから、……キスしないか?」
「なんで、僕と?」
熱に浮かされたようにハリーは問うた。
「だって、練習がしたい。失敗したくないもの。そして、もし練習をするなら、相手はキミがいい、ハリー。僕はキミがいいんだ……。だからキスしよう―――」
ドラコが唇を寄せてきたとき、もうハリーは抗えるはずもなかった。
たがいが薄っすらと瞳を開いたまま、見つめあって唇を重ねた。
その触れ合った唇の柔らかさに、甘やかさに、もうとろけそうになる。
ハリーは幸せすぎて、胸がいっぱいになってしまった。
そして思う。
(ドラコはズルい)と。
(もうこんなキスなんかドラコからされたら、もう僕はキミ以外誰も、好きになれる訳ないじゃないか。……ひどいよ……)
触れるだけのキスを繰り返しながら、ハリーはつぶやく。
「―――ねえ、ドラコ。このキスは練習なの?」
「そう……。練習だよ、ハリー」
ドラコの答えにハリーは胸が痛み、泣きそうになった。
「だけど、キミとのキスはこんなにも甘いね……」
吐息に蜜を混ぜたような、やんわりとしたドラコの微笑み。
「ああ、とても甘く感じるのは、どうしてかな?ハリー………、今キミは魔法を使ったのか?」
「―――まさか」
ハリーは小さく苦く笑った。
ドラコは自分が言った言葉の意味を理解していない。
ハリーのほほを愛撫するように撫でるのも、このしっとりと重ねあっているキスも、みんな練習だと言う。
(残酷なドラコ……)
ハリーは心の中でつぶやいた。
ドラコが触れてくる指先。熱を含んだからだ。混ざり合うような息。
せりあがる鼓動。
そのすべてが複雑に絡み合い、ハリーに眩暈を起こさせる。
頭の中にプリズムの虹彩を感じて、すべてが幻のように輝いて反射しているようだ。
二人はどちらからともなく、何度もくちびるを寄せてキスをした。
その口付けは深くなることはなかったけれど………
ハリーはもう悲しくて幸福で、どうしていいのか分からなくなる。
薄桃色の花が咲いている草の上で交わしたキスは、心に沁みるほど甘くて、ハリーを切なく幻惑させていったのだった―――
■END■