シリーズ小説
□【ふたりは〜シリーズ】
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【ふたりはいつも】
放課後、芝生に並んで座っていたら、突然ドラコが話しかけてきた。
「――ローラって、どう思う?ハリー」
「ええっと……、どう思うって、意味が分からないんだけど?」
ハリーは首をかしげる。
今まで自分の世界にいたような、ぼんやりとした顔のドラコが顔を上げて、ハリーに笑いかけてきた。
「ああそうか。まだローラのことキミに話してなかったっけ?君のグリフィンドール寮の、一つ下の学年の女の子だよ。知らないのか?あんなにかわいいのに―――」
「そんなかわいい子、いたかな?」
「いるよ、金色の巻き毛が腰まである、水色の瞳で、手足が細っそりとしていて、顔は―――」
ここで一端ドラコはしゃべるのを止めて、ハリーの耳元に口を寄せる。
「ちょっとね、リスに似ているんだっ!」
(うわーっ、たまんないっ!)
という表情でドラコは照れまくって、ハリーの肩をパンバンとたたく。
ハリーはそんないつものドラコの片思いの告白よりも、いきなりドラコに耳元に息を吹きかけられたほうが、たまらなかった。
カァーッと顔が真っ赤になる。
(僕はやっぱり変かもしれない)
ハリーは熱を持つほど真っ赤な顔を隠すように、そっとうつむいた。
彼は近頃、こんなちょっとしたことですら変に意識してしまう、この沸き立つ自分の感情に戸惑っていた。
(ドラコといると、なんでこんなにも感情の起伏が激しくなるんだろう?……僕たちはただのともだちなのに、なぜ?)
ハリーはいつのまにか、ドラコとの友情に何か別のものが含まれてきているような感じに、頭を抱えていた。
こんな自分の感情なんか知らないし、とてもヘンテコなものだと確信している。
(だって今、隣で盛大に瞳を輝かせて、片思いの女の子の話をしているドラコの嬉しそうな顔が、とてもきれいに見えるなんて、きっと僕は病気で、頭がおかしいんだ……)
ハリーは重くため息をついた。
それを目ざとく見つけたドラコが、怒った顔で詰め寄ってくる。
「―――あ゛あっ、ハリー!僕の前で、これ見よがしにため息なんかついて、ひどいぞ!!やっぱり、口には出さないけど、思っているんだろっ!!僕が惚れっぽくて、またすぐ振られるって。くーーーーっ、キミなんかこうしてやるっ!」
すかさずドラコは両手をハリーに突き出すと、その無防備な両脇に指を突っ込んだ。
そして、脇やわき腹に細い指で爪を立てて、くすぐり始める。
「うわっ!!やっ……やめろよ、ドラコ!ひゃーーーー、くすぐったいから……」
ハリーは身をよじって、その手から逃げだそうとする。
「逃すもんか!日ごろの僕の恋をバカにしている罰だーっ!」
覚悟しろとばかり、背を向けて逃れようとするハリーを背中から抱きつくように羽交い絞めにすると、容赦なくくすぐり始める。
「わはは……。はは……。ちょっと、ちょっと待って、ドラコ!」
本当にハリーはわき腹をくすぐられるのが弱かった。
めちゃくちゃ、そこが弱い。
それを知っているのは、このドラコくらいしかいなかった。
ドラコはあの冷たい外見からは想像できないほど、まるでじゃれるように、背中にもたれてきたり、腕をつかんできたりして、相手に自然に触れてくる。
薄暗いひとけが無い廊下など、自分が恐怖を感じる場所などでは、手まで握ってきて離そうとしなかった。
「怖いの?」
とからかうように言うと、
「別に怖くないぞ!暗くて転んだらいけないから、手をつないでいるだけだっ!!」
とても臆病なくせに、平気で意地っ張りなことを言う。
そんなわがままなドラコがハリーは好きだった。
特にハリーには、こそさら甘えるように身を寄せて、頭といわず、胸も腰も足もドラコはハリーのからだ中を触りまくった。
別にそこには性的な意味はなく、ただその相手の存在を確かめたかったようだ。
「いいなー、この胸板。僕も筋トレしようかな」とか、
「やっぱり腰はお互い、もっと太くなりたいよなー。腰が据わってないと重心が定まらないというか、箒の方向転換のときに、もっと早く回転できるようになると思わないか?」とか、
いろいろ言っている。
ハリーと自分のからだつきの違いを確認して、もっと「こうなりたい自分」というものを、想像しているのだろう。
ドラコの理想の自分というのは、ハリーから言わせると、「顔に似合わず、かなりマッチョなイメージ」らしい。
そんな筋肉質なドラコの姿など、この上質な整った繊細な容貌には、全くそぐわないことに、ドラコ自身が気づいていなかった。
つい先日、いつものようにハリーのからだを触りまくっていたついでに、両脇に手を差し込んだ途端、ハリーが身をよじって笑い出したことをドラコは発見した。
その瞬間、ドラコが意地の悪い顔でニヤリと笑った。
「ハリーの弱点を発見したぞっ!」
とばかり意気揚々とドラコは、ハリーが自分をいじめたりバカにしようとするものなら、思いっきりわき腹くすぐり攻撃を仕掛けてくるようになってきた。
ハリーはそれに降参してばかりだ。
いつも「僕が悪かった、ドラコ!」と謝ってくるまでは、ドラコはその攻撃の手を休めることはない。
今日もその攻撃を受けて、芝生に座っていたハリーは逃れようと、四つんばいのまま這って後ずさる。
「もう、逃すもんか!」
ドラコは上からからだごと被いかぶさって、自分の重みで相手を動けないようにガードする。
そして、身動きできないハリーに容赦なく、わき腹くすぐり攻撃を続行した。
「ひゃひゃひゃひゃ……ううっ―――、くる、苦しい、ドラコ。息が出来ない」
「どうだ、参ったと言え、ハリー!!」
「言うもんか、ドラコの惚れっぽさは、本当だからな!」
「ああ、くそーーーーー!!」
ドラコはうつ伏せのハリーの背中に馬乗りになると、足をつかって胴を締め付けて、相手が逃れきれないようにして、徹底的に両手でくすぐった。
「くるしーいっ!!……うう、くくくく……」
「だから降参と言えよ。僕が言い過ぎましたと、言え!」
「やだよ……いやだっ!」
ハリーはドラコの下で足をばたばた動かして身をよじりまくっている。
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