シリーズ小説

□【ふたりは〜シリーズ】
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【ふたりはともだち】





ドラコはあることに夢中になっていた。


「ドラコー、もう昼だよ。授業終ったよー」
クラップが声をかけても、ドラコはそれに夢中になっていて、
「んー、分かった」
と上の空で返事をする。


「お腹、ペコペコなんだけど。先に行っていていい?」
この声はゴイルだ。

「別にいいぞ」
ノートに顔を落としたまま、ドラコは生返事を返した。

その声に満足したのか、彼のお付きの二人は先に食堂へと行ってしまい、ドラコはひとり教室に居残っていた。

(おーし、もーちょっとで完成するぞっ!)
ドラコは鼻歌でも歌いたい気分で、ペンを走らせているのを、誰かがふいに覗き込んできた。



「まだノートをまとめているなんて、ドラコは真面目だねー。―――って、これは何?」

突然の声にびっくりしてドラコは顔を上げると、ひどく間近にハリーの顔があり、自分のノートを面白そうに眺めている。


「―――ええっ!ハッ……ハリー!どうしてお前がここに?!って、みんなはどこへ行ったんだっ?!」

ドラコはひどく驚いたように、二人しかいないシンと静まり返った教室を見回した。


「だってもうベルは鳴ったよ。昼ごはんで、みんな先に行ったよ」

「そうなのか、気づかなかった」
とドラコはブツブツ独り言のようにつぶやいた。


「で、それは何?」
またハリーはドラコのノートを指差した。

「なっ、なんでもないっ!!」

真っ赤になってドラコはノートを閉じようとしたのを、すかさず手を伸ばして、それを相手の手からひったくった。


「あっ!まて!何するんだ、僕のノートを勝手に見るな!」

取り返そうとするのを、ひょいと逃げて、パラパラとページをめくった。

そして感嘆の声を上げる。


「ドラコ、君、絵を描くの上手だねっ!!ものすごく上手に描くね!これは、スプラウト先生だね?これはトレローニー先生だっ!ひゃー、よく似ているなー。びっくりするよ」

ハリーはページをめくるたびに、「すごい!」を連発した。



それを聞いて、ドラコはまんざらでもない顔をする。

「そんなに似ているか?」
形のいい鼻を少し高くして、ドラコが問う。

「うん、バッチリ特長をよく捕らえているよっ!」
ハリーは盛大に頷いた。



その答えにドラコは結構気分がよくなってきた。
ドラコはこう見えても、人から褒められるのは大好きだったからだ。


「でも、こんなイラスト、いつ描いているの?」

「もちろん授業中に決まっているだろ。暇つぶしに落書きするのは、みんなやっていることじゃないか」

「え゛ーっ、でもドラコはそんなことはしない、真面目な優等生とばかり思っていたけど」

「僕は優等生なフリが上手なだけだ」
とニヤッと笑う。



「ずるいなー、君は!僕なんか、落書きしているとすぐバレちゃって、怒られてばかりだ」
ハリーは顔をしかめる。

「それは日ごろの学習の態度と、目つきが大事だからな」

「日ごろの態度は分かるけど、目つき?何それ?」
「ちゃんと先生の話を聞いていますよって真剣な顔で、時々うなずいて、真面目な顔でノートをとるふりをして、落書きをするんだ。これが落書きの極意だ!」

「なるほどー。君は演技派なんだ」
ハリーはくすくす笑いながら、うなずいた。



「僕の落書きも見る?」
とハリーは手に持っていたノートを広げて、ドラコに見せた。

ドラコも興味津々で、それを覗き込んだ。そして首を傾げる。

「――棒?○?枯れ木?……もしかして、これは人間なのか?」

「そうだよ、決まっているだろ。こっちがスネイプでこっちがマダム・フーチ先生だよ。分かんないの?」

「なんだこりゃー、ひどい絵だな!まるで棒人間だよっ!丸描いてちょんちょんじゃないか!うわっ、でもこのシンプルさが逆にいいぞ、これは!この落書きは結構いい!」


ドラコは突然ツボにハマったのか、涙ぐむほど笑い転げはじめた。

「髪の毛が黒いかそうでないかとか、長い短いだけじゃないか。ひどい手抜きの落書きだなー」

「でも、誰が誰だか分かるだろ?!」

「ああ、なんでか分からないけど、特徴をよくつかんでいるよ。イケてるよっ!」

ひとしきりふたりはお互いの傑作の落書きを見せ合って、笑い転げた。



机を挟むように向かい合って座りながら、気楽にハリーは尋ねてくる。

「―――で、なんで君は一人なの?いつものお付きの二人は?」

「昼飯のほうが大切なのはいつものことだ。置いていかれたよ。君は?」

「今が楽しい時期で、僕はお邪魔虫なこと分かっているのに、わざわざ二人がいつものように昼食に誘ってくるから、隠れてた」

ハリーは笑って肩をすくめる。


「それはご苦労なことだな」

「遠慮なんかするなって言うけど、遠慮したいのはこっちのほうだよ。ロンとハーマイオニーの二人しか分からない話なんかされても、間の僕はどうしたらいいんだよ。まったく!」

少しすねたような顔のハリーを見て、ドラコは苦笑した。


「だったら君も彼女を作ればいいじゃないか。簡単なことだ」

「そんなに簡単に見つかるもんじゃないだろ」
少しドラコは考える素振りをした。


「確かに―――チョウといい、パトマといい、君は面食いだから、誰でもって訳じゃいけないみたいだからね。でもかわいい女の子の上から順番にアタックしていけば、すぐお相手は見つかるさ。安心しろ」
からかうようにドラコは言う。


「でも前は顔で選んで失敗したから、今度は気の合う子がいいなー。もう相手に振り回されて、あんな喫茶店に入るなんて真っ平だっ!」

「ああ、あの店か……。レースたっぷりの中で居心地悪そうに座っている英雄殿を、僕もぜひとも見たかったよ」

「あんな恥ずかしい思いをするぐらいなら、もう彼女なんかいるかっ!」
ハリーはむすっとした顔で、少し顔を赤らめてぼやいた。



ドラコはおもしろそうに、相手を見ている。

こういう風に普通に話すようになって、まだ1週間しか経っていないことが不思議でならなかった。

それより以前は、顔を合わすたびに喧嘩ばかりしていたのが嘘のようだ。


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