短編小説
□*世の中、何があるのか分からない*
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ネームバリューとしてなら、ドラコより魔法界を救ったハリーのほうが断然有名人だった。
ハリーの場合はそれが大きすぎて、おいそれと気軽にアプローチなどかけてこないから、日常はいたって平和なものだ。
しかしドラコの場合はハリーほど有名人ではないけれど、一応は大金持ちの御曹司だ。
しかも、生粋の純血で、妙齢な上に、非常にハンサムときているから、野心マンマンの女性たちが放っておく訳がない。
美貌と地位と財力を持った兼ね備えた王子様のダンスパートナーの位置を目指して、今日も今日とて見苦しいばかりの、女の争いが勃発していた。
「見えない場所で肘鉄とか食らわせて合って、少しでも君に近づこうとするのがものすごかった。あれは下手なボクシングなんかより、結構見ごたえがあったよ」
などと、ハリーがからかう。
銀色に近いブロンドを神経質にかき上げて、ふぅとため息をつくと、また「うんざりだ」と呟いた。
「あんなのを間近に見せられると、興ざめもいいところだ」
眉間にシワを寄せる。
「女性はうんざりだって?」
頬杖をついたまま、コクリと頷く。
「だったら、いっそ男性とかに走るのは?」
「もっとイヤだ」
即答で答える。
「だろうね」
ハリーも笑って同意した。
「自分がもし君の立場だったら、全く同じこと考えるよ。いつも正反対の意見ばかりなのに、今夜は珍しく同意見だ」
「同意見もなにも、女性がダメなら即男性に走るなんて、普通はそう考えないだろ。普通なら」
「んー……別にそれが普通って訳じゃないけどね。ほら、シェーマスっていただろ、僕のいたグリフィンドールに。つい先日結婚式を上げたよ、男と」
ドラコは驚いたように目を見開く。
「僕もシェーマスとは仲がよかったから参列したけど、チャペルウエディングでとても幸せそうだったよ。――まぁ、参列者にちょっと男性のカップルが多かったくらいで、あとはいたって普通の式だった」
「……男同士で結婚できるのか?」
「出来るよ。ただ、ふたりともスーツで、花嫁のドレス姿がなかったくらいで……って、あの場合どっちが花嫁だったんだろ?」
ハリーは笑いながら、「今度、聞いてみよう」などと呟く。
相手のくだらない用件に、またドラコはバカにしたように鼻を鳴らした。
「いやー、シェーマスって学生の頃から結構遊んでいて、女の子の出入りも激しかったのに、結局落ち着いたのが男性のパートナーだって、世の中先に何があるのか分からないよなぁ」
ハリーはしみじみとした声で、うんうんと頷く。
「それは今も同じことかな。犬猿の仲の僕たちが顔を突き合わせて、話し込んでいるなんてさ。あー、珍しい!」
などと言うとハリーはドラコの膝下に腕を突っ込み、よいしょと抱え上げた。
ドラコは驚き、声を上げる。
「いいいっ、いったい何するんだ?離せ!」
「イヤだね!君は捻挫しているようだから、やさしい僕がパーティ会場まで連れて帰ってやるよ。きっと君を取り囲んで「カワイソー」と女の子が言っちゃって、看病しようとしてくれるよ。囲まれてもみくちゃにされて、シッチャカメッチャカだな、きっと」
ハリーは嬉しそうに笑う。
「辞めろ!下ろせ!帰らせろ!」
ドラコが腕の中で暴れる。
「ほらほら暴れると危ないから、落ち着いて。落ち着いて」
「うるさい!」
などと言いながら、傷付いていない足のほうで蹴り上げようとする。
それをかわすように身を翻すと、自然と体がターンをした。
クルリと世界が回る。
「離せ!下ろせ!」と暴れるたびに、右へ左へとクルクル回るのはなんだか段々と楽しくなってきた。
パーティで飲んだアルコールがこの連続回転のせいで、全身に回ったせいだろう。
面白い!
楽しい!
蹴り上げてくる暴れ馬のようなドラコをからかうのはなんだか痛快で、回る螺旋のような回転はまるでダンスのようだ。
まぁ、抱いているのが男というのが、イマイチのような気がするけど。
どこからか、微かに陽気なクリスマスソングが流れてくる。
なんだかむしょうに笑いたくなってきた。
だから思わず叫んだ。
「メリー、クリスマス!」
「なにがクリスマスだ!いいかげんにしろ、この酔っ払い!」
ドラコが真っ赤な顔で声高に応戦する。
気に入らない相手に、気に入らないことをするのは、やっぱり楽しかった。
止められるわけがない。
「やだね!」
まるで子供のような返事をしてヘラヘラ笑って、ステップを踏んで、ついでに開いている窓へと向かう。
何度もグルグルと回っていると、すごく暑くなってきたし、ここは外へでも出て、少し雪でも被って……
などと考えたハリーが、窓から外へ出ようとすると、ドラコが「やめろーーっ!」と大声でストップをかけた。
「ちょっ、ちょっとうるさいよ、マルフォイ!耳元で叫ばないで欲しいんだけど……。あれ?あれれれ?!!」
異様に床がツルツルするぞ?はて、野外にスケートリンクなんかあったっけ?
などと思ったときには遅かった。
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