短編小説
□*Coffee Break*
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ついに始業を知らせるベルが館内に響いてきて、途端に今まで現場実況を熱演していたハリーは、ぱたりと手を止める。
「あーあ、仕事かぁ。全然、説明ができなかったよ。今日さぁ、仕事が上がったあとヒマ?出来たら、今夜付き合ってくれないかな。報告書を早くしろってせっつかれているんだ」
「ああ、別に用事がないからいいけど」
軽く頷くと、ハリーは「やったー!」と手をたたいて素直に喜ぶ。
「助かった!もちろん、晩御飯は奢るから。今日は中華がいいな。エビチリとかどう?」
「ああ、美味しそうだな」
「決まった!」などと答えて、ドラコの肩に気軽に手を置く。
「いつも世話になりっぱなしなのに、メシを奢るぐらいしか、出来なくてホントごめん」
ハリーが謝る。
「いいから、気にするな」と、ドラコは首を振った。
「ああ、スリザリンとは一生ウマが合わないと思っていたのに、本当に出会えてよかった。助かっている。ありがとう!」
ハリーは満足そうに礼を言って背中をポンポンと叩くと、「じゃあ、またあとで」と笑って、自分の部署へと向かっていく。
その後ろ姿を見送りながら、「分かっていないな」と、ドラコは苦笑した。
彼が言うように、ホント自分は計算高い生粋のスリザリンだ。
『報告書を手伝う』のは、ただの親切心からだけじゃない。
能天気なハリーは気付いてはいないけれども、とりあえずここで自分たちは毎朝デートしていると、省内ではもっぱらの噂だ。
まわりからふたりは、社内恋愛中だと勘違いされていることも、ドラコは知っている。
もちろんあえてそれを打ち消したり、もみ消そうともしていなかった。
そっちのほうが省内でも人気が高いハリーに、悪い虫がつかないからだ。
ライバルは少しでも少ないほうがいいに決まっている。
うつむくと、ハリーが入れてくれたコーヒーカップを手の中で回してみた。
白いカップの中、黒い漆黒の渦から芳しい香りが心地よく立ち上ってくる。
それを一口飲み、『鈍いよなぁ、アイツは』と目を細めた。
『今日は強い酒でも飲んで、酔いつぶれたフリをしてみようか?』などと、思ったりもする。
でも、きっと相手は自分がベッドで寝ていても、心配してオロオロして、ただ付きっきりで介抱してくれるだけかもしれない。
――いや、あのハリーのことだ、絶対そうに決まっている。
『やっぱり、鈍いよな……。でも鈍いから、そこがいいんだよなぁ』
などと思いながら、残ったコーヒーを飲み干し、楽しそうに微笑む。
マルフォイと呼ばれていたのが、いつの間にかドラコと呼び名が変わったように、自分が相手の隣にいつもいるのが当たり前になるように、ゆっくりとハリーの生活に自分の生活が重なっていけばいいなと、ドラコは思っていた。
窓の外は木枯らしが舞って、近頃かなり寒くなってきている。
雪が降りそうな雲行きだ。
次の休日、久しぶりにホグスミードへ出かけてみるのもいいかもしれない。
――今年の冬は家族以外にプレゼントを渡す相手がいることが、とても嬉しかった。
楽しそうに考え事をしながら椅子を引いて立ち上がると、ドラコも自分のオフィスへと歩き去っていく。
――恋人たちのクリスマスは、もうすぐそこまで来ていた。
三階の奥の一番左端のテーブル。
柔らかな日差しが差し込むそこは、いつもふたりの指定席だった――
■END■