短編小説
□*Coffee Break*
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そういうことがきっかけで、ふたりの朝のミーティングは始まったのだ。
例の一週間で仕上げるという難題を無事乗り切ったあとも、今では恒例のように、毎朝、この場所で顔を突き合わせている。
ハリーは振り向くと、当たり前のように「おはよう」とドラコに声をかけてきた。
両手には紙コップに入ったコーヒーがふたつ握られていて、そのひとつをいつものようにドラコに渡す。
「おはよう」と返事を返しながら、いつもの定位置のテーブルにふたりして座り込んだ。
コーヒーを一口すすって、「それで……」と目で相手を促す。
ハリーは分かったように頷き、「今度の事件はややこしくてさぁ」とドラコに話始める。
ドラコは胸ポケットから取り出した小ぶりの手帳に、話す内容を手馴れたように書き留めていく。
ハリーは喋りながらも、手に持っていた袋から、ドーナッツを取り出すとふたりのテーブルに置いた。
ドラコは今では、家で朝食を食べたことはない。
いつもハリーが用意してくれるからだ。
毎日テーブルに乗るのはサンドイッチだったり、パイだったり、シナモンロールだったりするが、総じていつも甘いものが多かった。
「糖分は朝に取ると頭の回転が速くなるんだ」というのが、ハリーの持論らしい。
「だから、マルフォイも遠慮せずに食え」と言って勧めてくるので、今ではここがドラコの朝食の場所になってしまっているし、それはハリーも同じことだ。
それにここでハリーと顔を突き合わせていると、思わぬ収穫もあった。
今まで、居心地が悪かった職場での人間関係が、とてもスムーズになったことだ。
あの『ハリー・ポッター』と親密だというのが分かった途端、ドラコによそよそしかった相手が急にやさしくなったり、親切になったりした。
やはり、ゴールデンボーイの威光はすごいというか、己の保身ための変わり身の早さはさすがは魔法界だというのが、ドラコの感想だったりする。
……まあ、居心地が悪いよりはいいほうが、ドラコも過ごしやすいので今の環境に異論はない。
――それに――
ドラコは再びコーヒーをすすって、小さく笑みを浮かべる。
ハリーは自分の目の前で、今しがた解決したばかりの事件の真相を、身振り手振りを加えて、一生懸命に説明をしている。
本当に難しい事件だったらしくて、話が前後したり、ふいに内容が辻褄が合わなかったりして、かなり説明にてこずっているようだ。
そのあいだにコーヒーを飲んだり、ドーナッツをパクついたり、大忙しだ。
ドラコはその姿に目を細める。
ハリーは何かに夢中になっているとき、生き生きとしたとてもいい表情をすることに気付いたのは、いつの頃だったろう?
グリフィンドールらしい、自由さと奔放さとは、とても魅力的だった。
コーヒーをいつも自分の分もいっしょに入れてくれるのも、朝食を当たり前のように用意してくれるのも嬉しかった。
口元が緩んでくるのを引き締めようとしても、自然と笑みが浮かび、心が温かくなってくる。
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