短編小説
□*Coffee Break*
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額を押さえてうずくまっているハリーは、それでも呪文のように、「どうしよう、どうしよう」と言葉を繰り返している。
ドラコはそんな相手を困ったように見つめるばかりで、どう対処していいのか分からない。
というか、こんな相手と関わりなど持ちたくなくて、その場からそっと離れようとした。
二三歩下がったところで、急に立ち上がった相手に、むんずと肩を掴まれた。
「見捨てるなよ、マルフォイ。俺たち、同じホグワーツの同窓生だろ。もちろん、助けてくれるよな?」
「なんで、僕が!そんな義理も義務も僕には一切ないぞ」
「あー……、僕はヴォルデモートから世界を救ったし!感謝しろよ!」
「そんな大きすぎる出来事なんかに恩など感じるものか。知るかっ!」
「だったら、禁じられた森で君を助けたし!」
「古すぎ!いったい、いつの話だ」
「だったら、とっておきのことを言うぞ。――僕は炎の中から君を助けた!」
途端に、ドラコはグッと言葉に詰まった。
確かにそれを言われたら、反論などできない。
あの時、ハリーに助けられなければ、確かに自分たちは燃え盛る炎に巻き込まれて、焼け死んでいたにちがいなかったからだ。
ドラコは悔しそうに唇を噛みながら、むっつりとした不機嫌な顔で手を差し出した。
「その書類の束を見せてみろよ。とりあえず」
「えっ?――ああ、はい」
突然大人しく自分の意見に耳を貸し出した相手に戸惑いながらも、書類を差し出す。
パラパラとそれをめくるたびに、ドラコの眉間のシワが深くなっていく。
「本当に、全く出来ていないじゃないか。全部書きかけのままだぞ。これなんか、表題だけであとは白紙だなんて……」
あまりの仕上がりの悪さに頭を振る。
「僕はまだここに入って、少ししか経っていないから、報告書の手伝いなんか絶対に無理だ」
「そんなことないから!ただ出来事を順序立てて書いていけばいいだけなんだ。まるっきり簡単だよ!」
渡りに船だとばかりに、その簡単さをアピールする。
「だったら、すぐに自分ひとりで出来るはずだろ」
「でも出来ないんだ、僕としては!」
「――なんでだ?」
「物事を順番に書いていっていくと、途中で話がこんがらがってきて、順番が前後して、書き直したり、内容を付箋つけて追加したり、間違った部分を消したり、消さなかったりして、行ったり来たりしていたら、話がゴチャゴチャになって、分からなくなって、難しくなってきて、最後はどうでもいいやで、放り出して、結局最後はポイなんだ」
ドラコはその相手のお気楽さに、眩暈と変頭痛がしてきそうだ。
こめかみを押さえる。
「つまり……、つまりだな。順序立ててやれば、君は報告書が書けるんだな」
「ああ、そうだ!」
きっぱりとハリーは宣言をする。
はぁー……とため息をつくと、ドラコは目の前の椅子を引いて座った。
「君も突っ立っていないで、さっさと座れ。そしてこの一枚目の事件の詳細を喋ってみろ。要点を僕が書き出していくから――」
杖を振って自分のカバンを呼び寄せると、ドラコは中から筆記用具を取り出し始める。
ハリーは手堅い援軍を得たとばかりに嬉しそうに笑うと、嬉々としてドラコの前の椅子に座り込んだ。
「まずは、最初の事件は一年前で、部署に配属されたばかりの頃に……」
「一年前!それじゃ、本当にこの一年間も何もしていなかったのか?」
「ああ、……う、うん」
テヘっとばかりに、肩をすくめて頷き、頭を掻く。
「そんな仕草をしてもかわいくはないぞ」
むっつりとドラコは毒づく。
「早く話の続きをはじめてくれ。朝の始業時間まで、時間があまりないぞ」
「えっ?ああ、分かった。まずこの事件は――」
慌てたようにハリーは喋りだし、ドラコはその内容に頷きつつ、ペンを走らせ始めた。
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