短編小説
□*Coffee Break*
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「そーだよな、一年がたつんだよな。一年たっても、お前はちっとも進歩がないよな。報告書のひとつもまともに書けないのは、どうしてなんだ、んーーーー?」
ジロっと睨み付けられたハリーは、首を振った。
「だって、事件の発生件数が多すぎるんですから。片付けても片付けても、まだまだ新しい事件が起こるから、ひとつを解決すると、次の事件に取りかからないといけないから、報告書なんて後回しになってしまうんですよ。報告書は待ってくれるけど、事件は一刻の猶予もないですからね」
「確かに、お前が入ってからの闇払い部署の事件解決の総数は如実に増えたのは事実だ」
「でしょーっ!やっぱり!」
うんうんと鼻を高くして、偉そうにハリーは頷く。
「だがな、それと報告書が未提出なのは、全く別の話だ。ひとつの事件がちゃんと解決したのか、その様子などを事後報告するのは、義務なんだよ。義務なんだ。働く一般社会人としての、ギ・ム!ギムだ!――いいか、分かったな!」
「……ハーイ」
「返事は短く!」
「ハイ!」
頷くと、今までふたりのやり取りに圧倒されていたドラコに、フリントは視線を移す。
「そうか。ドラコはここに就職したのか」
「はい、まだ書記官の下っ端ですが。先輩もお変わりなく、お元気そうで」
愛想のいい笑みを浮かべる。
「まあな。この出来の悪い部下に、手を焼いているけどな」
「――仕事はちゃんとしてますよ。検挙率なら、部署で一番だし」
まだまだ懲りずに、ハリーがふたりの会話に口を挟んでくる。
フリントは笑いながら、今度は容赦なくハリーのこめかみを両手でグリグリと押した。
「あ゛あーーーーーっ!イッ、テテテテ!」
「報告書をひとつも書けない奴に、そんな威張れる権限はひとつもないんだぞ。分かったか!」
押さえる指先に力を込める。
「ヒィ……、参りました」
ギブアップだとばかりに、両手を上に上げてホールドアップの仕草をすると、やっと開放されてハリーはホッとため息をついた。
下ろされたばかりのハリーの両手に、バサリと書類の束が乗せられる。
その量はかなりありそうだ。
「…………先輩、これは?――まさか……」
ハリーは引きつった顔で相手を見つめる。
フリントは鷹揚に頷いた。
「そうだ、お前の予想通りだ。この一年間の溜まりにたまった書類不備の報告書の山だ。――いいか、一週間の猶予をやる。それまでにキチンと仕上げてこい。もし、出来なかったら、冬のボーナスはなしだ!」
「ええ゛゛ーーーーーーっ!そんな、バカな!もう冬のボーナスあてにして、最新の箒を買っちゃったのに!どうしてくれるんですかっ!!」
「返品しろ」
「ムリですよ、もう乗っちゃったし。ついでにクーリンクオフ期間も過ぎちゃったし、返品なんか受け付けてくれないし!アレ、めちゃくちゃ高かったのに!!わわわわ、どうしよう!どーしよう……」
フリントは驚いて叫びまわっているハリーに顔を近づけて、凄みを見せて低い声で囁く。
「――だから、四の五の言わずに、その報告書をきっちりと仕上げればいいんだよ。それでお前の冬のボーナスは安泰だ。業務態度がどうだとかいう、難しい査定は一切なしだ。――なっ、話は簡単だろ」
そう言うと、パチンと指先でハリーの額の傷を弾いた。
「いてー!」と叫ぶハリーを尻目に、「まっ、がんばれよ」というセリフを残して、フリントは踵を返して歩き去ってしまった。
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