短編小説

□*Sunset*
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「どれくらい、この形のいい唇を噛んだの?何か苦しいことがあったの?悩んでいることがあるの?いつも君は何もかも自分ひとりで抱え込んで、僕にひとつも教えてくれやしない」

「お前なんかに、話すことなどなにもない」

ドラコの冷たくて固い声はどこか震えていた。


ハリーが心配そうに見つめると、ドラコはまた唇を噛んで視線をぎこちなく逸らせる。


「ああ、君は本当にどうしょうもない性格だね。自分で自分のことを傷つけるセリフばかりを言って」

ドラコの薄灰色の瞳は少しにじんでいて、そのまぶたにハリーは口付けをした。


「―――真実を言ったまでだ」

「僕の前で意地なんか張らなくてもいいよ。泣いていいから。………いや、僕の前以外で泣かないで欲しい」


「それだったら僕は長生きするつもりだから、あと60年以上は泣けないことになるぞ」

ドラコの憎まれ口に、ハリーのほうが泣きそうな笑顔になる。


「そんなことはない。ずっと側にいるから。絶対に君から離れないから。たとえもし君を見失ったとしても、僕はずっと君を探し続けるからね、ドラコ。ずっと君を探して、世界の端まで行っても、必ず君を探し出すから安心して」

「夢みがちなことばかり言って。お前は本当に見かけによらず、ロマンチストだな」

ドラコは苦笑する。


「僕には自信があるんだ。この広い魔法界に君がいなくて、もしマグルの世界の中にいても、大丈夫だ。たくさんの大勢の人に混じっていたって、その中のたったひとりの君を僕は探し出すよ。―――必ずね………」

ひどく甘い言葉にドラコは瞳を閉じるとその腕の中で力を抜いて、相手によりかかった。


ハリーのからだからは、太陽と月のにおいがする。

それはひどく明るくて暗いものだ。


「僕はずっと一生、君に夢中だよ、ドラコ」

うっとりとハリーは自分の中にいるドラコに囁き続ける。


ドラコは小さく苦く笑った。


(ずっと夢の中にいるから、夢中なんだよ、ハリー。覚めない夢はないというのに……)


ドラコは信じていなかった。

ハリーの甘いだけの言葉も、自分の中にあるこの思いも、すべては夢のように消えてしまうと思っていた。


そして夢から目が覚めると、何も残っていないことぐらい分かっていた。



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