短編小説

□*Sunset*
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魔法界は世界中に広がってはいるが、そんなにネットワーク化されていないので、魔法使いの彼らは生涯、自分の生まれた国から出ることはまれだ。

国内移動ならば簡単に出来るが、海外となると俄然話がややこしくなってくる。


ドラコは国内のほとんどの地方を旅行で訪れたことがあったが、まだ国外へは行ったことがなかったので少しは興味もあったが、ややこしい手続きをしてまではわざわざ望んで行こうとは思っていなかった。


見たことがない人の格好や、読めない四角い文字が綴られた看板がぎっしりと並ぶ不思議な町並み。

路地にごった返す人波や、光の渦のような輝く摩天楼など、色鮮やかな写真を興味深げに見つめていた。


「―――この信じられないくらい、大きな夕焼けはすごいな!」

ドラコは驚いた顔で、その中の一枚の写真を指差す。


「ああ、フィジーだね。南の島だよ。小さい島だけど、海岸線に何も遮るものがないし、赤道直下だから、真っ直ぐ水平線に落ちていく夕日は、大きくて本当にこんなに美しいんだろうね」

ハリーはにっこり笑った。


「どう、行ってみる、ドラコ?」

「―――いや、いい。」

「マグルのお金なら心配しないで。親の遺産を換金して、なんとかっ!」

「バカか、お前!!」

ドラコは思い切り相手の頭をはたいた。


「ご両親は君のことを思って遺してくださったのだぞ。もっと有意義に使うことがあるだろ。それをこんな下らないことのために無駄遣いなどするな、まったくっ!」

「僕にとったら、全然無駄遣いじゃないのにな………」

ぶつぶつハリーは文句を言った。


「ドラコ、飛行機は乗れる?」

「聞いたことはあるが、乗ったことはない」

「実は僕も乗ったことがないけど、ヨーロッパ以外の国へ行くときはこれに乗らなきゃ移動できないよ。しかもこのフィジーへ行くには、多分10時間以上は飛行機の中で、じっとシートに座ってなけりゃいけないんだ」

「10時間も椅子に座りっぱなし?!―――信じられない」

ポートキーやフルーパウダーに慣れているドラコは、呆れた顔で首を振った。


「なんて、ひどい移動環境なんだ」

「魔法が使えないんだから仕方ないよ。―――ねえ、それよりも早く決めてよ」

ハリーはぐいぐい相手に、パンフレットやガイドブックの山を押し付ける。


「なに焦っているんだ?」

「早くしなきゃ終ってしまうから、夏が!」


「―――夏が終る?まだ始まってもいないと思うけど?夏休みまで、1ヶ月以上あるじゃないか。学年末試験も済んでいないというのに、まったく!お気楽な君の頭の中では、もうサマーバカンスがはじまっているのか?いい気なもんだな、ハリー」

「だって、時間がない」


「旅行の申し込みの締め切りとかがか?」

「………いや、そうじゃない」

ハリーは頭を振って、相手をじっと見た。深い緑の瞳はせつなそうに相手の顔ばかり見ている。


「―――そうか、僕たちの時間か」

ドラコは少しだけ笑うと、肩をすくめて視線を下に落とした。


ハリーはたまらず立ち上がると相手に近寄り、大きく腕を広げてぎゅっとドラコを抱きしめる。

その柔らかな金糸の髪に顔をうずめて、切羽詰った声でささやいた。


「今度の夏休みが終ると、君は本当に学校へ戻ってくるの?」

ドラコは何も答えない。


「もう本当は夏のあいだ、君を放したくない。ずっと独占していっしょにいたいんだ。いろんな場所へ出かけたり食事をしたり、ずっと君と過ごしたいんだ」

「―――最後の思い出作りか、ハリー……」


「ちがう!どうして、君はそんなことばかり言うの!!」

ハリーはドラコのほほを両手で包むと、ゆっくりとキスをする。


重ねてみるとひどくドラコの唇が乾いて、荒れていることに気づいた。

舌先でそれを癒すようにやさしく舐める。


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