シリーズ小説

□【Marriageシリーズ】
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【静寂な朝】


最初に聞こえてきたのはメロディーだった。

高いような低いような濁りのない声で、とても軽やかに響いてくる。


「……―――うん……」

その声に気付き、小さく呟き、寝返りを打つ。

シーツのサラサラとした肌触りがとても気持ちよかった。


まだ頭はぼんやりとして夢うつつで、このまま再び眠ってしまいそうになる。

差し込んでくる柔らかな朝日が閉じた瞼の裏側で光が踊り少し眩しいけれど、それすらも心地よかった。


軽いハミングは少し調子ハズレで、音程がちょっとズレでいるのが楽しい。

誰に聞かせるつもりでもなくて、ただ普通に口をついて出たのだろう。

よく聞いてみると、ラジオから流れている音楽に合わせて歌っているらしかった。


―――それでもやっぱり半音はズレている。

ハリーはクッと眠りながら笑った。


(ちがうよ、ドラコ。そこはそうじゃなくて、もうちょっと低いんだよ)

などと言いたいのだけれど寝ているから、ただのニャムニャムとした意味のない呟きになってしまう。


何か大きな布を広げたような、シュッという音が聞こえた。

そして椅子を動かす音。

ケトルが沸騰したときに上がるピィーッという笛に似た高音。

ポットに湯が注がれるコポコポという音が続いた。

チンと鈴の音と共に、香ばしい匂いがただよってくる。


(ドラコはオーブンの使い方が苦手だから、いつも薄くスライスしたパンを真っ黒に焦がすんだ。今度、トースターを買わなきゃな。ついでにトースターでいっしょに目玉焼きも作れるものがあるから、それにしょうかな)

などどハリーは頭の中でメモを取る。


そう思いながら、またふたたび深く眠ってしまいそうになった。

まるで雲の上をフワフワと歩いているような気持ちよさだったからだ。


柔らかなルームシューズの音がこちらへと近づいてきて(これが野暮な革靴の音じゃないことが素敵だろ?つまり相手はリラックスしている証拠なんだ)、シーツ越しに肩を揺すった。

「もう朝だぞ。いつまで寝ているんだ」

まるでさっきのハミングの続きのような声で、呼びかけてくる。


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