シリーズ小説
□【Marriageシリーズ】
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2.
「悪かったよ。僕が悪かった。本当にごめんなさい」
這う這うの体で大きなカートトランクを引きずって自宅に帰りつくと、先に帰宅していたドラコの前でハリーは素直に謝った。
リビングのテーブルを挟み向かい合ったまま、何度も頭を下げる。
それでもドラコは腕を組み、そっぽを向いたままだ。
「今回の出張は長かっただろ。だからドラコの顔を見たら嬉しくて堪らなくなって、それで……あの、その―――」
ドラコから漂う不機嫌なオーラに、ハリーの言い訳がフニャフニャと口の中で消えてしまう。
「―――僕が大げさなことが大嫌いなのは、君も知っているだろ?」
「知っています。……だから、ホントごめん」
またハリーは謝った。
見た目も体格も立派な大人なのに、ハリーには今でもどこか落ち着きのなさが残っている。
それが彼の魅力のひとつでもあるし、欠点でもあった。
「ハリー、君はまわりの空気が読めない」
「まったく仰るとおりで……」
ハリーの両肩が落ちる。
チラリと顔を上げると相手は難しそうな顔をして、眉間にしわを寄せていた。
ドラコは一旦機嫌を損ねるととことんまで悪くなるという、かなり後々まで尾を引くスリザリン出身者らしい性格だった。
きっとこの怒りが収まるのは多分、半日先になるだろう。
ハリーは居心地が悪そうに小さく咳をして、椅子に座りなおした。
「それで……、ええっと、お土産なんだけど……」
手近にある大き目のショルダーバックを引き寄せ、その中に手を突っ込む。
「はい、これ。いろがきれいだったから」
取り出したのはスクエアの形をした『水色のケーキ』だった。
(みっ……水色のケーキ?!!)
毒々しいほどの色によってデコレーションされたものが目の前に現れた。
しかもハンパな大きさではない。ゆうに30cm以上はあり、かなりデカい。
その色の鮮やかさには全く混じりけがなく真っ青な色のケーキで、上に乗っている色とりどりの星のモチーフは赤に黄色緑と、原色のオンパレードだ。
搾り出したクリームはありえない蛍光色のようなオレンジ色だった。
容赦ない色の洪水に目がチカチカしてくる。
ドラコは気味悪そうにそのケーキの入っている透明のパッケージを指差した。
「……これは食い物なのか?まるで出来損ないの蝋細工みたいだぞ。それか冗談で絵の具のチューブの中身をスポンジの上に乗せたみたいなとんでもない色どりだ」
「でも美味しいと思うよ。きっとドラコなら気に入るはずさ」
「なんで、僕が気に入ると思ったんだ?」
「だって甘いからね。砂糖より甘い。ドラコは甘いものが好きだろ?」
ドラコのケーキをさす指がぶるぶる震えた。
「いくらな、僕が甘いものが好きでも限度があるからな。しかも砂糖より甘いって、いったいどういう甘さなんだよ?!」
「口に入れた瞬間、甘くて脳天が痺れるくらいにすごいよ」
「………そんなものすごいものなんかいらない」
ボソリとドラコが呟いた。
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