シリーズ小説

□【Marriageシリーズ】
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1.


恋人の名前を叫んでハリーは出迎えに来ていた相手に、いきなり飛びついた。

まわりに人がたくさんいてもお構いなしだ。

相手はむかしからそういうヤツだった。

空気が情けないほど、まったく読めないヤツだ。

ドラコの機嫌が急転直下に悪くなる。


二人が落ち合っているのは郊外にあるエアポートの到着ロビーだ。

再会を喜ぶ姿はあちこちで見かけて、別段なにも珍しいことではない。

それなのになぜか、今、自分たちはまわりから見られていた。

好奇心いっぱいの視線がふたりに集まった原因は、目の前で能天気に浮かれているコイツのせいだ。


彼だって久しぶりに長い出張から帰ってきた恋人に早く会いたくて、慣れないマグル界のコーチ・バスに乗り込み、ここまでやって来たのはいいが、再会の嬉しさよりもまわりの視線が一気に自分たちに集まってしまったことのほうが気になった。


ハリーが到着ゲートから出てきて頭をめぐらせて自分を見つけた瞬間、低めのよく通る大声で「ドラコ!ドラコ」と名前を連呼し始める。

名を呼ばれたドラコは嫌な予感が頭をよぎり、咄嗟に視線を外した。

あさってのほうを見て、「アイツとは関係ありません。他人です」というフリを、彼がしても仕方がないことだろう。

ドラコは悪目立ちをしたり、他人の視線に晒されることが大嫌いだったからだ。


しかし無視を無視とも思わないハリーは満面の笑みを浮かべつつ、人ごみを掻き分けながら一直線に駆けてきた。

そして目の前にやってきたかと思った次の瞬間、有無も言わさずいきなりぎゅっと抱きしめてきたのだ。それこそ、力まかせに。


驚き慌てるドラコを尻目に、ウキウキとした笑顔のまますぐに顔を寄せると、自分のかけている邪魔な眼鏡を上に上げ、当然のように唇まで重ねてきた。

もちろん挨拶程度の軽いものではない。

腕の中で暴れるドラコをものともせず唇を重ねてキスをして、顔の角度を変えて何度も繰り返した。

たっぷりとそれを味わって、ぷはーっという満足げなため息をついて、やっとハリーは唇を離したのはかなり時間が経った後だはずだ。


たくさんの人が行き来し、人通りの途切れないロビーのド真ん中で、長身の男どおしががっしりと抱き合ってフレンチキスをしているなんて、いい見世物以上の何でもない。

ドラコは羞恥心で真っ赤になった。

きつい瞳をよりいっそう吊り上げると、相手の胸をドンとついて腕こから離れた。


「……こっ、この、恥知らずっ!!」

キッとハリーをにらみつけそう叫ぶ。


そして大きなトランクが2個もある大荷物のハリーを無視して置き去りにし、ドラコはさっさと踵を返し一人で歩き去ったのだった。


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