シリーズ小説
□【Marriageシリーズ】
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「君は雰囲気にこだわっているみたいだけど、僕の指輪は受け取ってくれないの?」
「……いや、そんなことはないけど。こんな場面でプロポーズなんて」
「えらくシチュエーションにこだわっているみたいだけど、だったらドラコなら、どんな風に告白するんだよ?」
「そうだな、ディナーのあとの落ち着いた雰囲気のなかで、相手の手を取り「結婚してほしい」とプロポーズをしたりして……」
「ああ、もちろん僕もだよ」
「いったい何が僕もなんだ、ハリー?僕はただ「結婚して欲しい」と……」
「イエス!分かった、僕も君が大好きだから、喜んで受けるよ」
「だからそれは僕の意見で、たとえばの話で……」
「だからイエス!君からのプロポーズはみんな『はい』だ」
ハリーは満面の笑みでドラコに微笑みかける。
『そうじゃない』と否定したいけれど、もちろんハリーには届いてないらしかった。
「たとえばどんな?」という質問は、これが目当てだったのか?
ドラコは何がなんだか分からなくなってくる。
(もしかして僕はハリーにしてやられたのか?!僕からプロポーズの言葉を言うように仕向けられたのか?)
意地っ張りな自分ならちょっとやそっとじゃ、相手からの告白に同意することはないだろう。
その逆のパターンで自分からのプロポーズなら、必然的に互いの合意がすぐに出来上がってしまう。
「だから結婚してというのは……」
「だから僕もイエスだよ、ドラコ」
「ちがう、プロポーズというのは……」
「愛している」
「そういうのじゃなくて―――」
「だったら、ジュテーム」
「言い方とかじゃなくて―――」
「一生添い遂げよう」
「そんな誓いは―――」
「幸せにしたい」
「そんな言葉を変えただけじゃあ――」
「だったら歌を歌うよ。君に捧げる歌を」
今にも大きく息を吸い込み歌いだそうとする相手を、慌てて引き止める。
「……ハリー、暴走する君を止めるには、いったいどうしたらいいんだ?」
ドラコのほうが先に音を上げてしまった。
「僕と結婚して」
熱烈に告白してくる相手をじっと見詰めて、やがてため息を一つついた。
「―――ああ、分かった」
真っ赤な顔のままぐったりと頷く。
なんだか言い争うのがバカらしくて疲れてしまった。
クラクラと目眩がする。
いつも自分はハリーに負けてばっかりだ。
恋人が自分の手を取り持ち上げ神妙な顔をして、指輪をはめていくのをぼんやりと眺める。
銀色に輝くそれはまるで、誂えたように自分の薬指にぴったりと収まった。
ドラコも覚悟を決めたように赤いほほのまま、もうひとつのリングを持ち上げ相手の指にはめると、ハリーが「ありがとう。ドラコ」と小さな声で囁く。
手と手が重なりふたりの指にはめられたばかりの指輪がカチャリと涼しい音を立てた。
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