シリーズ小説

□【Like a dogシリーズ】
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4.


誕生日の消灯後、遠慮がちに戸口のドアがノックされた。


ベッドサイドのランプの明かりで本を読んでいたドラコは、ふぅと少しため息をついてパタンとページを閉じると、素足にルームシューズを履いてドアへと向う。

ノックした相手を確かめることすらせずに、躊躇なく扉を開けた。


「ポッター、言っただろ。この部屋に入るときはノックは無用だって。どうしたんだ、忘れ……た、の……か?」

ドラコの声が急にしどろもどろになる。


「お前、それはどうした……?その姿は……」

慌てて相手を中へと招き入れる、ひざを折り腰を落として、相手と同じ目線に合わせる。

じっくりと視線を相手の頭の先から足の先まで、何度も往復してゴクリと唾を飲み込んだ。


「なっ……、なんてかわいいんだ!今日は特別だ!ものすごくラブリーでスイートだ。まるで薄茶色の綿菓子みたいだ」

目を潤ませその犬を抱き上げ、「かわいい」という褒め言葉をいつものように連発して、そのほほに頬ずりをする。


犬は巻きが強い尾をパタパタと横に振る。

全身を長い毛で覆われ、それがふんわりと美しく開立して、黒々とした目はまん丸で、キュンと伸びた小さな鼻は黒く濡れて湿っていた。

そのフワフワとした抱き心地に自然とドラコの顔は緩みっぱなしになる。


彼は大型犬が大好きだった。

実家の館で自分と同じほど大きな犬を飼っていて、物心ついたときからいっしょに過ごし、どこへ行くにも行動を共にするほど、まるで兄弟のようにその犬を大切にしていた。


しかし犬のペットの持ち込みを禁止しているホグワーツの寮生活では、大好きな犬とはどうしても別れなくてはならない。

先日までいっしょにいたペットがいないことに肩を落としていたけれど、その穴を埋めたのはこの犬だと言えた。


ハリーが変身していようが、犬好きのドラコには関係がないことだ。

―――いや、最初は気にしていたけれど、一度その姿を見たら理性や戸惑いなどすぐに吹っ飛んでしまう。

それほどこのアニメーガスで変身した姿は、どうしようもない程かわいかった。


ハリーはどちらかというと、小型犬のほうが得意なようだ。

小柄な体型にかわいいぶった仕草で、小さな舌を見せて小首を傾げて見上げると、もう相手はイチコロだった。


何しろドラコは小型犬にあまり馴染みがなかったし、あまり触ったこともない。

それが目の前で盛大に尻尾を振っているのだ。

メロメロにならない訳がない。

しかもとても仕草がかわいいし、無駄吠えはする訳でもないし、ドラコに抱かれればいつまでも大人しくその腕の中で尻尾を振り続けた。

飽きて手から逃れようとかは一切しない。

本当にドラコの成すがままだ。

「こんなかわいいものはいない」というのがドラコの口癖だった。


早速いつものようにそのふわふわの手触りを楽しもうと指をその中にもぐりこませる。

頭をなでて、鼻先にキスして、喉の下を揉むように愛撫した。

犬はいつものように気持ちよさ気に、ブルブルとその体を小さく震わせる。


指をブラシのように曲げて毛先を軽くブラッシングするように梳いていくと、背中に引っかかりを覚えた。

ムクムクの毛の中に何かがある。


「―――何だ?いったい何があるんだ?」

ドラコは小首を傾げつつ、深い毛の中に指先を突っ込むと、背中に背負うような格好で小さな何かが布に包まれ、背中に括り付けられていた。

その荷物を背負った姿でさえいじらしくて、ものすごくいい。

「ほんと、可愛すぎだ!!!」

ドラコは力いっぱい抱きしめた。


犬は嬉しそうに尻尾を振ってばかりいたけれど、やがて相手のほほをペロペロと舐め始めた。

クーン、クーンと小さな鳴き声まで漏らし始める。

ほとんど鳴かない子犬だったので、驚いたように顔を上げると、犬はブルリと背中を揺すった。


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