シリーズ小説

□【Like a dogシリーズ】
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淡い光がハリーの全身を包み、徐々に姿が小さく前かがみになり、尾が伸び、耳が上へと生えてくる。


このアニメーガスの術は痛みはないのだけど、背筋の中がモゾモゾ動くような、骨や器官が体内で移動するような感じは、決して気分のいいものではなかった。

進んで変身しようとは思わないけれど、それを自分の好きな相手が喜んでくれるなら話は別だ。

自分の体がねじれていく奇妙な感覚も最初だけだ。


ものの1分でハリーは大型の立派な犬へと変身した。

ゴールドの毛並みは艶やかで、垂れた耳ややや尖った鼻の形もいい。

ブルリと一回からだを揺らして自分の変身した状態を確認すると、フサフサの毛足の長い毛を揺らして、ゆっくりとドラコに近づく。


舌を出すと前足で伸び上がって、ドラコのほほをペロリと舐めた。

その感触にドラコは目が覚めたように、パチリと瞬きをする。

視線を落とし、自分の前にいる優美な姿の犬を見て、一気に相好を崩した。


「かっ……、かわいい。なんてチャーミングなんだ」

ほほを桃色に上気させ、満面の笑みでその犬をぎゅっと抱きしめてくる。


「この鼻の素敵なことと言ったら……。毛並みも最高の手触りだ」

犬の鼻先に自分からキスして、「かわいい」という言葉を連発し、その顔に頬ずりまでする始末だ。


どこもかしこも余すことなく相手のからだを撫でまくる。

犬は気持ちよさそうに鼻をクンクン鳴らして、盛大に長いふっさりとした尻尾を何度も振った。


ドラコにしたら、この抱きしめている大型犬ははただの犬になっているらしい。

『ハリーが変身した』という前置きは、茶色の犬の姿を見ただけですぐに抜け落ちてしまった。


抱きしめて、頬ずりして、撫でまくる一連の行為を何度も何度も繰り返して、やっと満足したのかドラコは犬から離れる。

壁際まで歩き、自分のベッドの上掛けをめくった。

「さぁ……、おいで。チビ―――」

やさしい声で呼ばれてそこにもぐりこむと、すぐにドラコが隣に入ってきた。


ニッコリと笑って、まるでぬいぐるみを抱くようにハリーの懐に抱きついてくる。

その仕草があまりにもかわいかったので、思わずドラコのほほを舐めると、ドラコは目を細めた。

「くすぐったい」

クスリと笑い声を上げる上機嫌さだ。


その毛並みを愛おしそうに指先で梳きながら、ドラコは「もう寝よう」と耳元で甘くささやく。

魔法で部屋の明かりが消されて、天窓からの月光の中でドラコは何度か瞬きを繰り返して、すぐに眠りに落ちていく。

それでも力が抜けた腕はまだ、ハリーに抱きついたままだ。

安らかな寝息を聞きながら、ハリーはじっと相手を見詰める。


こういう風にいっしょのベッドでからだを寄せ合って寝るのは、なんて気持ちがいいんだろうと思った。

自分はいっしょに眠るという行為に、ひどく飢えていることに気付いていた。

甘えられる相手も物心ついたときから誰もいなかったから、それを渇望してることも知っている。


(―――だけど……)
と、ハリーは思う。


「……だけどその相手が誰だっていい訳じゃないんだ」

そう呟き相手の柔らかな象牙色のほほをペロリと舐めた。

一層相手へと擦り寄り抱きしめなおすと、ハリーも瞳を閉じる。

瞼を閉じてもフワフワとする、くすぐったいほどの幸せな感じが身を包んだ。


満足そうに、ひとつため息をつく。


その夜、ハリーがしびれるほど悦びを感じたまま眠りについたのは、言うまでもないことだった。


■NEXT■

*……もうハリーはこのまま犬でいいんじゃね?
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