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□3.*Gold*【ドラコ×ロン】
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「僕は何もお前にひどいことをしたい訳じゃない」
ドラコは相手に顔を寄せると、そのほほにキスをした。
「僕の前で意地を張る必要はない。もっと素直になれ、ロン」
甘やかな響きを含んだ声。
ドラコの指先が相手の首筋から背中のラインを丁寧にたどっていく。
「………お前よりひどいヤツなんかいるもんかっ!」
怒りと羞恥に涙を浮かべたまま、顔をねじって必死で抗議するその姿は、強くドラコを惹きつけた。
「―――お前だけだ、ウィーズリー。お前だけが、ひどく僕を混乱させる」
愛おしくてたまらない感情が溢れて、熱い息のまま低くささやく。
「お前だけだ、ロナルド―――」
再び囁かれる甘やかな言葉。
ロンはその言葉が信じられず首を横に振った。
「………お前なんか大嫌いだ!」
ロンは相手の下でただ深く涙を流し続けている。
押し付けられている床は冷たくて固く、上からの重さに肺が押しつぶされそうだ。
何かにすがるように顔を上にあげると、彼の親友の姿が大きく開かれた窓の向こう側から、自分の視界へと飛び込んでくる。
赤いマントをなびかせてハリーは天高く舞い上がり、箒を操り、自由に空を舞っていた。
まるで鳥のようだ。
風に流れる黒髪、なだらかでつややかなフォルムの彼のファイアーボルト。
太陽が沈みかける金色に輝く世界の中で、その姿はなんと美しい光景なのだろう。
「うう………」
ロンはたまらず低くうめいた。
それに引き換え自分は床に這い蹲り、涙をこぼしている。
――――惨めだった。
とても惨めで、死んでしまいたかった。
(ハリー、いったいどうすれば、僕はそこへ行けるの?僕は君と同じように、空を飛びたかっただけなのに―――。ハリー……、ハリー……)
ロンのからだが震える。
「―――痛い……。助けて、ハリー……」
ロンは救いを求めるように呟いた。
その言葉を聞き、ドラコは微笑んだ。
「本当にバカなウィーズリー………。お前の救世主なんか、ここにはやってこない」
やさしく――――、慈しむようにひどくやさしくドラコは、相手を床から丁寧にゆっくりと抱え起こした。
白くて美しい指が乱れたロンの前髪を撫でて、その感触を楽しんでいるようだ。
「ロナルド……。いい加減に覚えろ。お前を幸せに出来るのは、この僕だけだ。お前の抱えている痛みも辛さも、悲しみも、みんな理解できるのは、この僕だけだ」
少し荒れた唇が降りてきて、ロンの口をふさぐ。
ただロンはドラコにされるがままになり、涙をこぼし続けていた。
分かっていた、自分は「英雄」になどなれないことを。
自分は「選ばれた人間」ではなかった。
彼の出来のよすぎる兄弟はその比類なき才能に溢れていた。
輝く美貌に、聡明な頭脳。
勇敢な精神にたくましいからだつき。
緻密な計算に裏打ちされた、抜け目のない世渡りのうまさ。
どんなものでも臆することなくチャレンジし、向かっていくその軽やかさと行動力。
そしてそのあとに続くロンには、みんな一応に首を傾げる。
「あの兄弟の血を受け継いでいるはずなのに、なぜ?」と。
数々の輝かしい戦歴を潜り抜け死闘をかいくぐり、クィディッチの花形シーカーでもあるハリーは、ロンの無二の親友だった。
あれほどの有名人の隣にいるロンを見て、誰もが不思議そうにふたりを見比べた。
英雄のハリーと、これといった特徴もなくどこにでもいる平均的でつまらない普通の男の子。
(ああ、いったい僕が何をしたっていうんだ?僕が誰かに迷惑をかけたか?誰かをひどく傷つけたりしたか?………僕はここにこうして立っているだけなのに、なんでみんなそんな哀れむような目で僕を見るんだ―――)
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