短編小説

□*Hope*
3ページ/5ページ


2.


背中に感じるのは、砂の感触だ。

しかもそれはじんわりと熱を持ったように熱かった。


瞳をひらくと笑ってるハリーがいて、その向こうには満天の星空が輝き、そのすばらしさに目を見張る。

「……きれいだ……」

「本当に、そうだね」

うっとりと自分の顔を見てハリーは答えるので、その鼻先を引っ張ってやった。


「ちゃんと上を見ろ!」

「いやきれいだよ。ドラコの瞳にも星が映っているから」

自分ならば一生言わないような、気障なセリフをハリーはいつも恥ずかしげもなく、ぬけぬけと言って逆にドラコを困らせた。


本当は相手を押しのけてこの場所から逃げだしたいが、ポートキーで移動したここがどこか分からない。

熱い砂に、波音が近い。
空気は熱を持っていた。

「―――ここは?」

「南の島なんだ。無人島だよ。ここには僕と君しかいない」

見回すと本当に小さな島だった。

やしの木が一本だけ生えているだけで何もなく、この島の全体は見回しただけで、端から端まで見えた。


「今は引き潮なんだ。日付がかわると、満ち潮になる。そして朝にはこの島は海の中に沈むよ」

こともなげに、ハリーは言った。


ドラコは立ち上がり、砂を払うと、辺りをじっと見つめる。

空に輝いている星は今まで見た中で一番近くて、落ちてきそうだ。

海にその星が映っているかと思ったが、波間がキラキラと光っているのは、夜光虫だった。

小さな輝きが漂い、神秘的な光の帯を描いている。


真っ暗な中で光のシャワーを浴びているようで、ひどく気持ちがよかった。


そっとハリーはドラコの背中に回りこみ抱きしめた。

いつもならばそれを振り払ってしまうが、今はそのまま腕の中でおとなしくその体を預ける。


「――プレゼントをあげても、いつかはなくなったり、壊れたりするでしょ。だから僕は君に、思い出をあげたかったんだ。思い出はどんなことがあっても壊れないからね」

「これがいい思い出になるのならな……」

憎まれ口をたたき、相手を見た。

自分より少しだけ背が高いハリーは、なんだか泣きたいような、笑っているような複雑な表情をする。


―――彼の瞳には自分はどう映っているのだろう?



なぜ突然ハリーがそんなことを言うのか、ドラコはその意味を分かりたくもなかった。

「……でも、大好きな君に何もあげないのは、やっぱりイヤだな……」

鼻先をこすって、ハリーは杖を取り出した。

夜空に向かってその先を振る。


軽やかな光が、その先から空に放たれた。


そして空から一つの流星が、ドラコの前に落ちてくる。

両手を差し出すと、キラキラと輝き小さな光はその中に納まる。

こんなのは子供だましの魔法だった。

簡単で、誰でも出来る魔法だ。

だけど、ドラコはその輝きをじっと見つめた。


青白くチカチカと瞬くその光は純粋で、引き込まれそうになる。

自分の手の中にあるこの星は幻でも、ドラコはよかった。

……何かを信じたかった。

やがてその星は、輝きが薄くなり、その手の中で消えた。


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ